『ビル・ゲイツの面接試験』ウィリアム・パウンドストーン(書評)
【8月16日特記】 書物というものは最後まで通して読んだ後に全体を正しく評価すべきものだが、この本に限ってはパズル面接の問題と「解答編」だけを読んで「あー面白かった」というのもアリではないだろうか。「まえがき」も前置きもなくいきなり本論に入って、しかも第2章になるとIQテストの話になるあたりが何ともとっつきにくいのであるが、その辺で嫌になった人はパズルと解答だけ読むという読み方でも良いのかもしれない。つまり、それだけでも充分面白いという意味だ。
この本はマイクロソフト社が入社面接時に使用した数多くのパズル問題、及び他企業の類似の問題を集めておいて、まずそれらに対する見事な解答群を披露し、その上でそういう面接につきものの問題点を整理し、限界点を呈示し、解決策を示唆する、という内容である。
つまり、マイクロソフトや多くのIT企業が実施している面接の方法に対しては一貫して批判的な態度で書かれているのである。IQテストが引き合いに出されるのも、面接はIQテストと同様に不確実な結果しか得られないという論に基づいている。
しかし、この本を読んでそういう印象が残るかと言えば残念ながらそうではない。何故か?──それは載せられているパズルが面白すぎるからである!
僕自身はどうかと言えば、マイクロソフトの求人に応募してこんな過酷なパズルを1日何時間にも亘って解き続ける面接なんぞを受けようとは思わないし、受けても通るはずがない。しかし、その一方で、本当にこんな面接を実施する会社なのであれば、(入社面接は受けたくないが)一度マイクロソフトで勤務してみたいという気になる。
それは、本当にこういう能力が最優先して求められる会社なのであれば実は働き甲斐があるのではないか、というのが半分、入社した後も本当にこういう能力が重要視されているかどうか確かめてみたい、というのが残り半分である。
著者は、この本を書くに当たってマイクロソフトの(公式の)協力は一切得られなかったと書いている。マイクロソフト式面接の欠陥も正しく指摘している。しかし、それにも拘らず、僕はこの本を読んでマイクロソフトに好感を覚える。
我ながらムチャクチャな深読みだが、実は著者は裏でマイクロソフトと手を握っていて、同社のイメージアップに一役買ってるのではないかという気さえする。まあ、こんな感じ方をするのは僕ぐらいのものだろうが・・・。でも、それくらいパズルが面白いのである。
ところで、167ページに出てくる「ジェパディ」はアメリカの人気クイズ番組のタイトルである。本来ここでは脚注をつけて「ジェパディ」の番組の進め方について触れておかないと、読んだ人は何のことだか解らないだろう。あるいは訳者がそのことを知らないまま通り過ごしてしまったのかもしれない。老婆心ながら指摘しておく。
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