『リセット』北村薫(書評)
【7月5日特記】 『スキップ』『ターン』に続く≪時と人≫シリーズの第3弾である。ここまで読者を引っ張れるのは何を措いても第1弾の『スキップ』が面白かったからに他ならず、何を隠そう僕もそういう経緯でここまで読み進んできた口だ。
時の歪みをストーリーに織り込んだ作品は北村薫以外の作家にもたくさんあるが、例えば東野圭吾の『秘密』なんかと比べると作家としての力量が格段に違う。北村の場合は文章や構成の下手さによって読んでいてつっかえてしまうようなことが全くなく、淀みなくストーリーを追わせてくれるのである。
この第3弾においては、前2作に比べて遥かに多くの文献に当たって時代の背景を克明に描いている。あとがき(宮部みゆきとの対談)を読んで、小学生時代の自分の日記まで入れ込んでいると知り、なるほどなあと思った。
この人の持ち味は、ミステリっぽい筋運びでありながらしっとりとした文章と展開であって、読んでいてハラハラドキドキというものではない。僕は音楽でも本でも、安らぎを求めるのではなく刺激を求めて手を出すほうなので、そういう意味では僕向きの作家ではないのだが、まあ、でもこの安定感は捨てがたい。宮部みゆきは「3作のなかで、この『リセット』がいちばん好きかもしれません」と言っているが、それはこの作品の持つ独特の優しさのせいではないだろうか。
これから読む人のことを考えて一切ストーリーのことを書いていないので、どんな本だかよく判らないかもしれないが、僕は安心してお勧めする。全く読んだことがないのであれば、まず『スキップ』をお読みになってはいかがだろうか。
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