『宇宙のかたすみ』アン・M・マーティン(書評)
【7月13日特記】 これは上等なお話ではない。そもそもが小中学生をメイン・ターゲットにした、どちらかと言えば安い小説である。
内容が単純なのでストーリーについては触れないが、「子供の感受性について書いたもの」と言えば、なんとなく「ああ、こんな感じの話かなあ」と思うでしょ?──そう、そんな感じです。「優しい知的障害者が出てくる」と言えば、映画「レインマン」とか「フォレスト・ガンプ」なんかを思い出すでしょ?──そう、その類です。
ただ、この手の話でとても大事なことなのであるが、これは「安い」小説ではあっても、決して「安っぽい」小説ではない。この差は決定的である。
つまり、この小説は読者に対して何のあてもなく希望を植えつけようなどとはしていないのである。
「結局みんな良い人でした」「努力を続ければいつかは報われる」「誠意は必ず通じる」──そういった単純で安っぽい図式を、根拠もなく押しつけようという小説ではないのである。
現実の世の中はもう少し複雑で、良い人にも悪い人にも会うし、努力は報われたり報われなかったり、誠意は通じたり通じなかったりする。ただ、逆に言うと、世の中は決して悪い人ばかりではないし、努力や誠意は常にないがしろにされるわけでもない。
そういう現実の複雑さをちゃんとそのまま写し込んで本にしたのがこの作品である。だから大人が読んでも拒否感は生じない。もっとも、それほど斬新な部分はない。他の小説や映画で似たようなシーンや設定があったような気もする。
ただ、このタイトルだけは秀逸である。文字通り、読者に「宇宙のすみっこをめくってみせてくれる」お話である。
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