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Tuesday, July 15, 2003

『漱石の孫』夏目房之介(書評)

【7月15日特記】 読み終わって思ったのは「ああ、よかったなあ」ということだった。「漱石の孫」という呪縛から著者が逃れられて本当によかったと、まるで他人事ではないみたいに思われたのである。

考えてみれば不幸な人である。もしも森鴎外の孫であったなら、森というありきたりの苗字から文豪を思い出す人はいなかっただろう。しかも、房之介という名前である。漱石の本名が金之助であることはかなり有名なので、(スケの字が異なるとは言え)ここでも漱石の孫であることが容易に想像できる。

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Monday, July 14, 2003

『バカの壁』養老孟司(書評)

【7月14日特記】 異論があることを承知で書くが、このタイトルは良くない。何故こんな粗野な題をつけなければならないのだろう?

わかりやすくアピールしたい、少し煽りたい──そういう気持ちは判らないでもないが、著者が少し頭に来ているのが透けて見える。となると、怒りは伝染しがちなので、読者の反発を買うこともあるのではないだろうか?

例えば、「わがままな脳」とか「係数ゼロと無限大」とか(この両例だとあまりキャッチーではないが)その手のタイトルをつけたほうが良かったような気がする。

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Sunday, July 13, 2003

『宇宙のかたすみ』アン・M・マーティン(書評)

【7月13日特記】 これは上等なお話ではない。そもそもが小中学生をメイン・ターゲットにした、どちらかと言えば安い小説である。

内容が単純なのでストーリーについては触れないが、「子供の感受性について書いたもの」と言えば、なんとなく「ああ、こんな感じの話かなあ」と思うでしょ?──そう、そんな感じです。「優しい知的障害者が出てくる」と言えば、映画「レインマン」とか「フォレスト・ガンプ」なんかを思い出すでしょ?──そう、その類です。

ただ、この手の話でとても大事なことなのであるが、これは「安い」小説ではあっても、決して「安っぽい」小説ではない。この差は決定的である。

つまり、この小説は読者に対して何のあてもなく希望を植えつけようなどとはしていないのである。

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Saturday, July 05, 2003

『惜春』花村萬月(書評)

【7月5日特記】 セックス描写の妙手・花村萬月による青春物語であるが、今回は主人公が童貞であるところがミソである。

童貞から始まって次第に性豪へと成長して行く話ではなく、いつまでたってもずっと童貞のままなのである。

主人公の佐山がこの作品の終わりまで童貞のままなのか、それとも最後で遂に初体験をするのかについては、これから読む人のために書かないことにするが、いずれにしても作品中では童貞を捨てられそうなチャンスに全く巡り合わずに可愛そうなくらい童貞のままなのである。

従ってこの作品では、あの花村独特の、匂うような、激しい、まさに劣情を催させるセックスの描写はほとんど出てこないのである。

しかし、物語の舞台となっているのは雄琴のソープ街(この当時はまだトルコ街と言っていた)で、登場人物は当然ソープ嬢やソープランドの従業員ばかりであるから、作品のテーマ自体はやはり「性」なのである。

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『リセット』北村薫(書評)

【7月5日特記】 『スキップ』『ターン』に続く≪時と人≫シリーズの第3弾である。ここまで読者を引っ張れるのは何を措いても第1弾の『スキップ』が面白かったからに他ならず、何を隠そう僕もそういう経緯でここまで読み進んできた口だ。

時の歪みをストーリーに織り込んだ作品は北村薫以外の作家にもたくさんあるが、例えば東野圭吾の『秘密』なんかと比べると作家としての力量が格段に違う。北村の場合は文章や構成の下手さによって読んでいてつっかえてしまうようなことが全くなく、淀みなくストーリーを追わせてくれるのである。

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