『九十九十九』舞城王太郎(書評)
【5月16日特記】 舞城王太郎って一体何者なんですか?
何しろ僕が彼の作品を読むのは『阿修羅ガール』に続いて2作目だし、そもそも覆面作家ということもあってあまり情報がないのです。
これは一見したところ明らかに駄作と言うか、無茶苦茶と言うか、一応「メタ探偵小説」なんてキャッチはついているけど、なんかその場で思いついたことをダラダラ書いているだけみたいだし、ミステリの体は取っているものの、名探偵九十九十九の謎解きは極めてご都合主義と言うか、幼稚に思えるほど飛びすぎてるし、筋や構成は相当入り組んでいて章が変わるごとに登場人物は一変するし、タイムスリップはするしパラレルワールドだし、そこに聖書の「見立て」が絡んで来るし、九十九十九は自分の顔の肉を削いでみたり挙句の果てには自分で自分の首を切り落としたりで、最後には「僕」が何人も登場するなど、読んでいる僕はさっぱり訳がわかりません。
でも、これは言うなればピカソなんですね。
ピカソの絵は目も鼻も口も手もバラバラで、子供のいたずら書きだと言われればそうかなと思ってしまう。でも、子供のいたずら書きにしてはなんか妙にしっかりしたところがある。そして、ピカソが若い頃に書いていた絵を見せられて、その写実的な巧さにびっくりすることになる。その写実的な巧さを崩して崩して後年の作風ができあがったと聞かされるとぐうの音も出ないほど納得させられてしまう。
僕は舞城が本物のピカソかどうか、彼が昔に書いた小説を読んで力量を確かめようなんて思わない。ただ、今これを読んで「確かにこれはピカソだ!」と言えるかどうかなんですよね。そして、確かにそう感じるしそう言える。
ハチャメチャに見えて、バラバラのドロドロに見えてその奥にきらりと光るものを感じさせる。しかも大量に。普通の小説の中では単に臭いだけの台詞が、この文脈の中では感動するくらいに活きてくる。
舞城王太郎って一体何者なんですかねえ? なんて言ってたら三島由紀夫賞取っちゃいました。
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