『ボディ・アーティスト』ドン・デリーロ(書評)
【5月24日特記】 『アンダーワールド』に続いてドン・デリーロの作品を読んだ。
多分こっちを先に読んでいれば『アンダーワールド』を読むことはなかっただろう。さすがにあのお化けみたいな大著と比べると、こちらのインパクトは小さい。だが、印象に残らない作品かと言えばそうではない。
(これくらいの長さの作品を短編小説と呼んで良いのかどうか判らないけれど)短編の場合はどんな後味を残すかが勝負みたいなところがあるものだが、この作品の場合どうかと言えば、何とも言いがたい、妙に尾を引く味がある。
本当に何とも形容しがたいのであるが、すごくゆっくりとした時間の流れの中で、静かに波 紋が広がって行くような書きっぷりである。
申し訳ないが、帯の宣伝文句にあるような「極小にして極上の傑作」という感じはしない。ただ、なんか残るのである。
あらすじを書く意味がある小説だとは思 わないのでここには書かない。文章の巧さを指摘する向きもあるが、これは原文の巧さなのか柴田元幸の訳の巧さなのかは定かではない。ただ、「文章が巧い」 という一点を取り上げて誉めそやすべき小説だとも思わない。
全体として、なんかいつまでも漂っている残り香のような小説なのである。不思議で、不思議だか ら魅力的な小説なのである。
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