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Thursday, April 10, 2003

『会社はこれからどうなるのか』岩井克人(書評)

【4月10日特記】 ちょうど10年前に、同じ岩井克人による「貨幣論」を読んでとても面白かった記憶がある。でなければ、こんなタイトルの本は買わなかっただろう。

タイトルはなんだかビジネス書っぽいが、岩井教授が書いているのだから経済学書なのだろうと見当をつけて読んだら果たしてそのとおりだった。「貨幣論」を読めば1行目から明らかなように、この人の基礎はマルクス経済学である。そして、この『会社はこれからどうなるのか』においても、まず所有関係から説き起こし、そこに時間軸を加えて歴史的な発展形態を明らかにしようとする姿勢はマルクス経済学そのものである。

そして、まさにその王道的分析手法に沿って理論は極めて明晰である。

ところが、その論理展開は第7章に入って突然独自性を発揮し、「差異性」というキーワードが登場する。そこから先は、まるで騙されたみたいにあまりにきれいにものごとが説明されて行く。

これはひとつには、(タイトルのつけ方からしてそうなのだが)この本が研究者ではなく一般の人間を読者として想定しており、ひとえに読みやすいことを心がけた結果なのだろう。1つか2つの例を挙げただけで推論を完結して次に進んで行くのだが、もしもこれが学術論文であったならもっと多くの例を考察して、反証を持ち出される危険性を封じ込めて行くはずだ。

人によっては(そして僕には)その点が少しもの足りなく、信頼性に欠ける気もするのではないか。

改めて確認するが、これはビジネス書ではなく経済学書なのである。ただし、一般向け(というよりもサラリーマン向け)に書かれた経済学書である。この点に関して著者は、自分にはサラリーマンの経験がなく「純粋培養の学者」であることを文中で何度か(しかも言い訳っぽくならずに謙虚に)述べている。しかし、経済学者本来の使命は現象面での対処療法を見つけることではなく、経済の本質を見破ることである。

そういう意味でこの本は十二分にその使命を果たしていると言える。純粋に読み物としても面白い。

そして、結論として述べられている事柄は僕ら中年サラリーマンにも希望を与えてくれる内容になっている。

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