『半落ち』横山秀夫(書評)
【3月2日特記】 これは多分読む側の趣味の問題だろうし、あるいは僕のような趣味の人間はほとんどいないのかもしれないが、ともかくこの本は薄い。それは内容が薄いという意味だと思ってもらっても良いし、また文字通り本の厚さの問題であると受け取ってもらっても良い。
始めから終わりまで、あまりにすらすらと読めてしまうのが逆になんだか頼りないのである。
もっと細かく書き込んで行けばもっと良い作品になるのになあという気がしてならない。
別に重厚な長編が偉くて軽快な短編は劣ると言うつもりはない。単にこの作品が重厚な長編向きの素材であるのに惜しい気がするのだけのことである。
妻を殺して自首してきた警察官が、犯行そのものについては素直に供述しているのに、犯行後の2日間については堅く口を閉ざしている「半落ち」という設定はなかなか面白いし、各章が刑事や裁判官などさまざまな登場人物の視点で順繰りに書かれている構成も面白い。官僚の世界の組織防衛や、検察と警察の対立などに加えて、アルツハイマーや白血病など多彩な要素を織り込んで読み応えのある作品になっている。
だからこそ、登場人物の背景や境遇などをもっともっと書き込んで行けばもっともっと感動的な大作になったのではないかという気がするのである。
それをやらなかった恨みが最終章に現れている。最後の謎解きまでがすらすら読めすぎるのである。そして、すらすら読ませるために少し筋立てに無理があって、そこが弱みになっているような気がするのである。
読もうかどうしようか迷っている一般人に対しては、僕は「安心して買って読みなさい」と言うことができる。しかし、例えば高村薫の大ファンというような人には少しもの足りないのではないだろうか。
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