『ねじの回転』恩田陸(書評)
【1月4日特記】 「これは恩田陸ではない!」と憤るファンが出てくるかもしれない。しかし、作者名が恩田陸となっている限り、これもまた恩田陸なのである。
作品の風合いはともかく、よくもまあ、こんな入り組んだストーリーを考えるなあ、と思わせるところはいつもながらの恩田陸なのである。
歴史ものであり、読んでいる最中も読んだ後も頭がクラクラするあたりは、フィリップ・K・ディックの『高い城の男』を連想させる。『高い城の男』が第2次世界大戦を起点とする一種のパラレル・ワールドであるのに対して、こちらは2.26事件を起点として、時間が重層的に入り乱れている。この仕組みの面白さは恩田陸ならではのものと言える。
ただし、今回は歴史ものである。その分、構成は「人物寄り」ではなく「仕掛け寄り」になっている。歴史的人物には当然のことながら歴史的な制約があって書き込みにくく、かといってオリジナルの登場人物がそれほど入念に設定されるほどの余地もなかったようだ。私のようなファンにはその点が少し食い足りない気はする。
だからと言って、「これは恩田陸ではない!」という主張には作品を批判する力はない。それは単に読者の頭の中で凝固してしまった恩田陸像から外れるということでしかないからだ。
一方で「これこそ恩田陸の新境地だ!」と快哉を叫ぶ読者もいるのかもしれない。そして、恩田陸のイメージなどという代物とは無関係に、単にこの作品を読んで「ああ、面白かった」と満足する読者もいるだろう。
個人的には好きな作品ではない。しかし、何を書いても読者を唸らせるのが恩田陸なのである。
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