『バースデイ・ストーリーズ』村上春樹編訳(書評)
【1月13日特記】 アンソロジーというのは勝手なものだ。それぞれの作者がそれぞれの思い入れで書いたものに勝手に統一性を見つけてかき集めてきて1冊の本にしてしまうのである。思えば本やCDでアンソロジーを編む作業をしている人は何と楽しいだろうか。
おまけにこの本では、村上春樹は編集だけでなく翻訳まで手がけている(さらに自分でもバースデイに関する短編を1つ書き下ろしている)のである。まるで小学生が工作にいそしむみたいに、嬉々として作業を進めている編者の姿が目に浮かんでくる。
もっとも、「訳者あとがき」にあるように、誕生日をテーマにした短編を集めるに当たってはなかなか苦労したようで、出版社の編集者やNYのエージェント、挙句の果てに柴田元幸氏の力まで借りて収集したのがこの10編である。
苦労したと言ってもこれはこれでなかなか楽しい過程であったのではないか。村上の文章からそういう楽しさがにじみ出ている。
そういう意味で、僕にとってこの本の中で一番面白かったのは、この「訳者あとがき」である。
いや、別に掲載されている短編小説の出来が悪いという意味ではない。いずれもシャープで余韻が深い。ただ、あとがきにも書かれている通り、ここに収められた小説は割合暗い話が多い。
15歳の少年の誕生日を描いた「永遠に頭上に」は別として、メインの登場人物に老人が設定されたものが多く、救いようもなく無残なものから仄かな救済を示唆するものまで、その濃淡には差があるが、いずれも人生の悲哀を描いたものである。
もし僕が自分のことを何か書くとすれば誕生日については書きたくないなあ、というのが、皮肉にも僕の抱いた感想である。
村上自身の筆による「バースデイ・ガール」は如何にも村上春樹らしい小品である。
選び方、訳文、書き下ろし小説、そして「あとがき」──村上ファンが村上春樹を満喫できる1冊である。
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