『木曜組曲』恩田陸
【12月21日特記】 いやはやまったく、恩田さん、あなたは本当に頭の良い方だ。よくまあこんなもの書きますね。全ての謎が解き明かされて話が終わったかと思いきや、そこからボールはまだ3バウンドくらい跳ね続ける。
他の恩田作品の書評にも書いたけれど、ひとつ間違うと「私はこんなに頭が良いんだ」と言わんばかりの嫌味な作品になりかねないところを、いつも通りスマートに切り抜けている。それはひとえにこの人の人物構築力の豊かさによるもので、単なる推理ゲームに陥らずあくまで人間を描くという作業に集中できているからではないかと思う。
耽美派の巨匠と言われ、謎の服毒死を遂げた女流作家・重松時子の4回忌の木曜日、彼女を偲ぶ女性5人が彼女の旧居に集まる。そこでひょんなことから次第に明らかになる重松時子の死の真相──などと「宣伝用の帯」風に書くと、この作品の良さはちっとも伝わらない。
恩田作品の真髄は、彼女の織り成すストーリーの中で、タイプの異なる登場人物がしっかりと息づいていることである。この作品における5人(死んだ時子を含めると6人)、そして『黒と茶の幻想』の4人のような劇場的な人物の配置具合にはただただ感嘆する。
単に推理が好きな人ではなく、人間が好きな人でないと、この作品は満喫できないのではないか。
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