『だからアメリカは嫌われる』マーク・ハーツガード(書評)
【12月12日特記】 まず、読み始めてすぐに思ったのは邦題の不適切さである。
訳者があとがきで述べているように、9.11以降アメリカのマス・メディアは「なぜわれわれは嫌われるのか」という表現をたびたび使ってきた。訳者はこれを踏まえて邦題をつけたのだろう。しかし、原題は THE EAGLE'S SHADOW: Why America Fascinates and Infuriates the World である。メインタイトルの EAGLE はアメリカのことであるが、問題は副題のほうで、これは訳せば「なぜアメリカは世界を魅了し(同時に)世界を激怒させるのか」となる。
まさにこのタイトルの両面性こそがこの本のミソなのであって、決して著者はアメリカの醜い面だけを抉り出そうとしているのではない。彼本人がアメリカ人であり、アメリカを愛しアメリカを誇りに思っている姿がはっきりと見て取れる。彼自身が文中でも「誤解のないように」とそのことを明言している箇所がある。そして、そのことがあるからこそ、彼が指摘するアメリカの欠陥についての表現が生き生きとしてくるのである。
邦題というものは決して直訳でなければならないものではない。日本人と外国人の感覚の違いを考慮に入れなければならないし、本が売れるようなタイトルをつけることも必要だろう。しかし、この本の場合は最も外してはならないところを踏み外してしまっているのである。読んでいてそのことが気になって仕方がなかった。
それはさておき、これは当の(つまり、9.11の被害者である)アメリカ人にもこのような冷静な観察者がいたのかと驚き、そして心強くなるような本である。「世界を知ろうとしない」アメリカ人の中にあって、世界中を飛び回って「アメリカと聞いてまず何を思い浮かべるか」とインタビューし続けた男の真骨頂である。
そして、分析は極めてクールである一方、表現はかなりホットである。特にアメリカのマスメディアとブッシュ大統領に対しては、読んでいて「ここまで書くと折角読んでいた人が怒って途中で投げ出すのではないか」と心配になるほど、時々筆が走りすぎている感がある。
マスメディアに対する激越さについては、多分彼がジャーナリストとしてかなりひどい仕打ちを受けてきたということの裏返しなのだろう。
この本はもちろん日本人よりもアメリカ人に読ませるための本である。一方、日本人である私は、アメリカにもちゃんとこのような人がいることを知って、激怒するよりもむしろ魅了されてしまった類のようである。
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