« October 2002 | Main | December 2002 »

Saturday, November 30, 2002

『マーティン・ドレスラーの夢』スティーヴン・ミルハウザー(書評)

【11月30日特記】 味わいの深い、良い小説だった。それは言葉を変えれば、僕自身にこの作品を味わう力があったということなのかも知れない。しかし、一方で僕自身にこの小説の魅力を伝える力がないのがもどかしい気がする。

これは「なんだか、すごい」小説なのである。僕にはその程度の形容しかできない。「なんだか」という表現のなかに、この小説の懐の深さを読み取ってもらうしかないのである。

最初は、「子供の頃から才能の片鱗を見せていた主人公が実業家として成功し、頂点に達する寸前に妻に足許を掬われて全てを失う」というようなストーリーではないかと想像しながら読み進んでいた。ところが、この作家はそんなありきたりなストーリーを書く気はなかった。

いや、そもそもこの小説の魅力は「ストーリー」の周辺にあるのではない。それは重ねられる描写の隙間に埋め込まれている。

Continue reading "『マーティン・ドレスラーの夢』スティーヴン・ミルハウザー(書評)"

| | Comments (0) | TrackBack (0)

Sunday, November 17, 2002

『唇を閉ざせ』ハーラン・コーベン(書評)

【11月17日特記】 これはマイロン・ボライターを主人公とするシリーズから離れた所謂スタンダロン作品である。従って、ここではマイロンやエスペランサら一連の登場人物によるような減らず口のジョークは幾分控えられている。

しかし、人は急にその作風を変えようとしてもそう一気には変えられないもので、例のシリーズにあるようなユーモアのセンスは随所に生かされている。

Continue reading "『唇を閉ざせ』ハーラン・コーベン(書評)"

| | Comments (0) | TrackBack (0)

『アンダーワールド』ドン・デリーロ(書評)

【11月17日特記】 よくまあこんなものを書いたなあという感慨もさることながら、我ながらよくこんな本を読み通したなあという思いのほうが強かったりする。上下巻600ページずつ、合せて1,200ページ超の大著である。

しかもこの本、読み始めてからペースを掴むのにひどく時間がかかる。

登場人物が次々と入れ替わる。読み進めば進むほど新しい人物が登場してきて、誰が主人公なのか掴めない。どうやらニックという人物が主人公に近いのだが、あるときは「彼」あるときは「俺」という人称で語られている。おまけに時代が頻繁に前後して何が何だか判らない。

そして展開が極めて遅い。冒頭のシーンはプロ野球のシーンなのだが、往年のアニメ「巨人の星」を思い出してしまう。──星飛雄馬が振りかぶって足を上げる。一陣の砂埃が舞い上がる。目の中で炎が燃え上がる。漸く球が指を離れる。ボールがクルクル回転しながらホームベースに近づいてくる。はい、そこで今回は終わり。また来週てな感じ。それと並ぶくらい、この小説は細部に至って綿密な描写を重ねている。

Continue reading "『アンダーワールド』ドン・デリーロ(書評)"

| | Comments (0) | TrackBack (0)

« October 2002 | Main | December 2002 »