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Saturday, August 31, 2002

『プログラムはなぜ動くのか』矢沢久雄(書評)

【8月31日特記】 すでに多くの書評で言われているように「この本はとても解りやすい」、などと書くと「コンピュータの初心者でもこの本を読めばプログラムが何故動くかがスーッと頭に入る」と誤解されるかもしれないが、残念ながらそんな魔法みたいな本はあるはずがない。

少なくとも「コンピュータを使い始めてまだ1ヶ月」という人にはとても無理だ。できればPC歴が何年かあって、しかも「その期間ずっとゲームとメールだけやってた」というのではなくて向上心をもって知識の対象を広げてきた人であって、その上でほんの少しでも良いからプログラミングについて齧ったことがある、というのがこの本の理想的な読者像である。

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Sunday, August 25, 2002

『第四の手』ジョン・アーヴィング(書評)

【8月25日特記】 アーヴィングはやはりアーヴィングである。

アメリカ本国でも一部で「アーヴィングの不具嗜好」と非難されているようだが、彼の小説では体の成長が止まってしまった少年が主人公であったり、事故で片目を失ったり、兵役を逃れるため自ら指を切り落としたり、肉体的にそういうひどい目に遭う人物が頻繁に登場する。この小説においても主人公のTV記者がライオンに左手を食いちぎられてしまうところから物語が始まる。「世界は災害に満ちている」というのは未だにアーヴィング普遍の人生観であるようだ。

で、これをどう読むか?――「人間は失って初めて大切なものの価値が解る」とか「大切のものは外見ではなく内面である」というような教科書臭い心情を述べようとしているのではない。アーヴィングの世界においては災害は誰にでも降りかかってくるものであって、それが肉体的なものであるか精神的なものであるか、あるいは経済的なものであるかといったことはある種のバリエーションに過ぎない。

彼の小説の登場人物が魅力的なのは、そういう災害に遭いながら意外に淡々と人生を前向きに進んでいることである。

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Saturday, August 10, 2002

『放送禁止歌』森達也、デーブ・スペクター(書評)

【8月10日特記】 一般の方は読んで驚かれるのかもしれないが、同じ放送業界に籍を置いている僕にとっては、この話は別に目新しいテーマではない。むしろ以前からモヤモヤとして釈然としない気分であったものを、よくぞここまで紐解いてくれたという感じがする。

論旨は明快である。特に序盤は明快すぎてややつまらない感じさえする。

著者は「放送禁止歌」という現象を糸口にまず差別という問題にぶつかる。そこから彼なりにさらに掘り進んで辿り着くのは「自主規制」という看板を隠れ蓑にした責任放棄であり、事なかれ主義の思考停止でしかない。

著者は所謂「東」の人であり、「西」の住民であった僕のように少年期に「差別」の洗礼を受けていない。僕のクラスの中では明らかに差別があった。小学校で「同和教育」を受け、ある日校区内に「解放会館」なる施設が建った。

著者はそういう経験も知識も全くないまま、この問題に取り組み始めたわけであるが、そういう人である故に却って何の先入観もなく非常に虚心坦懐なアプローチができている。もちろんそういう人であるが故の混乱や苦悩も見える。

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『OUT』桐野夏生(書評)

【8月10日特記】 それぞれに貧しくてさまざまに不幸な4人の主婦によるバラバラ殺人——凄惨な話ではあるが猟奇的な趣味は感じられない。それは作者が扱おうとしているベースが事件ではなく人間のほうにあるからではないかと思う。

この小説が評価されたのは、異常な事件を描きながら決して表層に留まることなく、人の心の底で黒々ととぐろを巻いている禁断の箇所に到達しているからではないだろうか。

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『R.P.G.』宮部みゆき(書評)

【8月10日特記】 例によってよくできている(途中から先が読めたりしてしまう部分もないではないのだが…)。今回はインターネットである。『火車』にしても『理由』にしても、その時代に特徴的な現象を小説に取り込むのが本当に上手な作家である。

ただし、宮部みゆきの場合には人物よりも社会にスポットライトを当てる傾向があるので、ややもすると登場人物が印象に残らない嫌いがあり、この作品も例外ではない。人間の描き方が淡白なのである。

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