『空のオルゴール』中島らも(書評)
【6月15日特記】 ストーリー構築の能力はともかくとして、残念ながらこの人は元来文章の巧い人ではない。特に、舞台の人だからある程度仕方がないのだが、台詞に設定を語らせ、台詞で筋を進行させようとする嫌いがある。その結果、台詞が浮く、はずす、展開が急ぎがちになり、ストーリー自体がご都合主義になってしまう、という欠陥が出てしまう。
面白いお話ではある。もっと筆が立てば筋もしっかり立ってくるはずである。小説においては役者の身体性で表現することはできないので、ト書きにあたる部分をもっと精緻に書き込まないと、全てが浮ついてしまうのである。これは例えば「超訳」のシドニー・シェルダンにも通じる点である。
だからこの作品は戯曲だと思って読めば良い。この台本を基にして、間の取り方の巧い優秀な役者が、場の読み方の巧い優秀な演出家の指導の下に演じている姿を想像しながら読み進むと、結構笑えるし楽しめる。
小説としては書き込みが足りない。代表作「ガダラの豚」ほどの魅力が出せなかったのは、その辺の弱点を露呈してしまっているからである。
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