『六番目の小夜子』恩田陸(書評)
【6月1日特記】 「これがデビュー作とは!あまりに巧すぎる」と思ったら、あとがきに「大幅に加筆した」と書いてあったので少し納得した。
確かにデビュー作らしい未熟さは残っている。鎖に例えれば切れたままの環がいくつかある。考え直してみるとやっぱり辻褄が合わない点もある。作者が人物の描き分けをはっきり意識しているのは感じられるが、彼女の後年の作品ほど切れと深みがないのも確かだ。
しかし、それにしても筆致は確かである。書き慣れない者が小説を書くと、往々にして登場人物よりも作者が語ってしまう傾向があるのだが、この小説にはそういう未熟さは微塵もない。
例えば状況を説明するために登場人物にむりやり喋らせたような台詞がない。ストーリーよりも作者の意図のほうが見えてしまうような、理屈が勝った表現もない。後年の作品のように、猛烈に筋を推し進めてゆくほどのパワーは感じられないが、上手に話を転がして、話の山も谷もちゃんと心得ている。
デビューの時からすでに「恩田ワールド」は健在なのである。
学生時代の話を書かせると本当にこの人は巧いですねえ。
ファンタジーやミステリという側面を取り除いてしまっても読む価値はあると思う。
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