『漢字と日本人』高島俊男(書評)
【6月1日特記】 日本語の本がブームである。この本も、下手するとそういうあまたの本に混じって、書店で平積みされているケースがある。
しかし、この本は「わたし国語が苦手だから」というような人が読む本ではない。ことばや漢字というものにかなりの興味があって、それなりの知識を持っている読者の知的好奇心を満たしてくれる本なのである。
これは中国語・中国文学の専門家が書いた言わば学術書であり、中途半端な知識の持ち主が、もっと中途半端な読者に向けて、ブームに乗って書き散らしたような本ではないのである。
であるにも拘らず、この話し言葉みたいな文体は何なんだろう? 読んでいるとベランメエ口調の江戸弁が頭の中にこだまする。「ちゃんと書き言葉で書けよ」と言いたくなるのは僕だけではないだろう。
内容的には、中国と日本の歴史から説き起こして、日本における漢字の変遷が非常によく解るように語られている。さらにその過程で、国家や官僚の干渉によって、いかに漢字というものが歪んでしまったかという事実を突きつけられて、読んでいる者は愕然とするのである。「ことばは時代とともに自然に変わり行くものである」というのが僕の持論だが、それを強制的に変えようとする権力が存在するのだということを強く印象づけられた本である。
これをそういうドキュメンタリとして読む読み方もある。
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