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Monday, June 03, 2002

『マイ・フィールド・オブ・ドリームス』W・P・キンセラ(書評)

【6月3日特記】 僕はこの本をとある本屋の「スポーツ」のコーナーで見つけた。はっきり言ってこの店主の判断は誤りであると思う。少しは迷うかもしれないが、僕ならば間違いなく「文学」の棚に並べるだろう。

「野球小説」というジャンルがある。野球が舞台になっていたり主人公が野球選手である小説のことではない。野球のすばらしさについて書かれた小説のことである。大作家の書いたものなら、フィリップ・ロスの「素晴らしいアメリカ野球」が、ある意味でその一例だろう(ただし、あまり正面から直接的に野球を称えてはいないが・・・)。

そして、このW・P・キンセラこそ野球小説の、いや野球文学の第一人者に他ならないのである。映画「フィールド・オブ・ドリームス」の原作となった「シューレス・ジョー」だけではない。「アイオワ野球連盟」「野球引込線」「魔法の時間」など、どれをとっても胸にキューンと響く野球小説を書き続けている。なによりも彼は、野球が魔法であることを、誰よりもよく知っているのである。

そのキンセラが、イチローについて書いてくれた!――僕はもうそのことだけで充分なような気さえする。本を手にとってレジまで持って行くあいだに、もう自分がワクワクし始めているのに気づいていた。

そして、読んでみて驚いたのは、キンセラ自身がイチローの熱心なファンであり、良き理解者でもあったということである。

だからこの本は、冷静なジャーナリストが書いたルポルタージュなどではない。それこそ、読んでいて胸躍るようなイチロー賛歌であり、野球賛歌である。

最後の部分に、イチローを作中人物とした短編小説が載っている。まるでそこらへんの単なる野球ファンのオッサンが書いたような下手糞な習作である。しかし、「彼にこんなものを書かせてしまうくらいの魅力が、イチローという選手にはあるのか」と思うと、駄作もご愛嬌である。

イチローのファンならば、この本と合せて、この本の中でも取り上げられている「イチローUSA語録」を、そして、この本で初めてキンセラに興味を持たれた方には、上に掲げた彼の他の著作もお読みになることをお勧めする。

※ この書評は2002年7月に応募作品6万本以上の中から選ばれて、「bk1書評大賞優秀賞」を受賞しました(審査委員長は故・安原顕氏)。今思えば書評を書き始めた1年目にこの賞をもらったからこそ、僕の書評はこんなに長く続いているのかもしれません。

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