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Saturday, June 29, 2002

『よもつひらさか往還』倉橋由美子(書評)

【6月29日特記】 前著『あたりまえのこと』のあとがきを読んで、「もうこの人には小説は書けないのだろうか」と心配したのだが、どうやら健康状態は回復したようだ。

デビュー作から暫くは「党」や「運動」を揶揄する、政治的でやや抽象的な小説を発表し、その後には「性」(ジェンダーではなくセックスのほう)を描くちょっとヤバイ作品があったかと思うと、いつのまにか日本文化の深い境地にまで達してしまった多才な作家である。

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Saturday, June 22, 2002

『象と耳鳴り』恩田陸(書評)

【6月22日特記】 「知的」という安っぽい言葉をむやみに使いたくはないのだが、いや、「知的」という言葉を安っぽく使いたくはないのだが、この人の書く話は不可避的に知的なのである。

著者のデビュー作に登場した脇役の老人を主人公とする、「知的謎解きゲーム連作集」とでも言うべき本である。この著者らしく、「事件が起きる→解決する」式の構成にはしていないのだが、あとがきによると「本格推理小説への憧れ捨てがたく、数年に亘り悪戦苦闘したあげく、やっとのことで出来上がった短編集」なのだそうである。

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Saturday, June 15, 2002

『空のオルゴール』中島らも(書評)

【6月15日特記】 ストーリー構築の能力はともかくとして、残念ながらこの人は元来文章の巧い人ではない。特に、舞台の人だからある程度仕方がないのだが、台詞に設定を語らせ、台詞で筋を進行させようとする嫌いがある。その結果、台詞が浮く、はずす、展開が急ぎがちになり、ストーリー自体がご都合主義になってしまう、という欠陥が出てしまう。

面白いお話ではある。もっと筆が立てば筋もしっかり立ってくるはずである。小説においては役者の身体性で表現することはできないので、ト書きにあたる部分をもっと精緻に書き込まないと、全てが浮ついてしまうのである。これは例えば「超訳」のシドニー・シェルダンにも通じる点である。

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Saturday, June 08, 2002

『オール・アバウト・セックス』鹿島茂(書評)

【6月8日特記】 これはもう少し堅い本かと思ったが、かなりイッてしまっている本だった。中身が中身だけにどうしてもイッてしまうのだ。

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『プレーンソング』保坂和志(書評)

【6月8日特記】 とある大書店にこの本が平積みされていて、「最初の段落だけ読んでみて気に入ったら買ってください」みたいな手書きのPOPが添えてあった。僕はまんまとそれに嵌って買ってしまったのである。

その部分をそのまま引用してみる。

一緒に住もうと思っていた女の子がいたから、仕事でふらりと出掛けていった西武池袋線の中村橋という駅の前にあった不動産屋で見つけた2LDKの部屋を借りることにしたのだけれど、引っ越しをするより先にふられてしまったので、その部屋に一人で住むことになった

これでひとつの段落である。句点を配することなく、読点でだらだら繋いで、「ふられた」ことによる感情の起伏については全く触れないまま、さらりと、と言うか飄々と、のっぺりと続いてゆく。最初から最後までこういう文体である。

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Monday, June 03, 2002

『マイ・フィールド・オブ・ドリームス』W・P・キンセラ(書評)

【6月3日特記】 僕はこの本をとある本屋の「スポーツ」のコーナーで見つけた。はっきり言ってこの店主の判断は誤りであると思う。少しは迷うかもしれないが、僕ならば間違いなく「文学」の棚に並べるだろう。

「野球小説」というジャンルがある。野球が舞台になっていたり主人公が野球選手である小説のことではない。野球のすばらしさについて書かれた小説のことである。大作家の書いたものなら、フィリップ・ロスの「素晴らしいアメリカ野球」が、ある意味でその一例だろう(ただし、あまり正面から直接的に野球を称えてはいないが・・・)。

そして、このW・P・キンセラこそ野球小説の、いや野球文学の第一人者に他ならないのである。映画「フィールド・オブ・ドリームス」の原作となった「シューレス・ジョー」だけではない。「アイオワ野球連盟」「野球引込線」「魔法の時間」など、どれをとっても胸にキューンと響く野球小説を書き続けている。なによりも彼は、野球が魔法であることを、誰よりもよく知っているのである。

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Saturday, June 01, 2002

『六番目の小夜子』恩田陸(書評)

【6月1日特記】 「これがデビュー作とは!あまりに巧すぎる」と思ったら、あとがきに「大幅に加筆した」と書いてあったので少し納得した。

確かにデビュー作らしい未熟さは残っている。鎖に例えれば切れたままの環がいくつかある。考え直してみるとやっぱり辻褄が合わない点もある。作者が人物の描き分けをはっきり意識しているのは感じられるが、彼女の後年の作品ほど切れと深みがないのも確かだ。

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『漢字と日本人』高島俊男(書評)

【6月1日特記】 日本語の本がブームである。この本も、下手するとそういうあまたの本に混じって、書店で平積みされているケースがある。

しかし、この本は「わたし国語が苦手だから」というような人が読む本ではない。ことばや漢字というものにかなりの興味があって、それなりの知識を持っている読者の知的好奇心を満たしてくれる本なのである。

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