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Saturday, May 25, 2002

『ウイニング・ラン』ハーラン・コーベン(書評)

【5月25日特記】 待ちに待ったマイロン・ボライター・シリーズの第7作。

今回は第3作に登場したマイロンの学生時代の恋人エミリーの再登場が事件の発端である。いつものウィン、エスペランサ、ビッグ・シンディらの常連のキャラクターに加えて、なんと前作に登場した女装の元モサド工作員ゾラまで登場している。

彼(彼女?)は「水戸黄門」で言えば、最初は敵役で現れながら後に黄門様の一行に加わった風車の弥七みたいな設定で、恐らく今後のシリーズでも大活躍するのではないだろうか。いや、弥七の百倍は強烈なキャラだ。

このシリーズは何と言ってもアメリカン・ジョーク、つまり軽口・減らず口のオン・パレードを楽しむべき作品である。

そして、元バスケのスターであり後にFBIのメンバーになり現在はスポーツ・エージェントである悩み多き主人公マイロン、その親友で巨大会計事務所の経営者であり武道の達人にして、殺人や愛のないセックスに何の抵抗も持たないウィン、女子プロレスのタッグ・チャンピオンで現在はマイロンの仕事のパートナーであるエスペランサとシンディ、バリバリの女弁護士で家事は全くできないマイロンのママなど、巧みにデフォルメされた登場人物の設定を楽しむ作品である。

マイロンとウィンがカルト的なテレビ番組オタクであったり、酒を飲まないマイロンがいつもヨーグルト・ドリンクを注文したりするなど、細かい遊びの設定も随所にある。

ストーリーについては、僕はいつも1段階ひねりすぎだと思うのだが、まあミステリ・ファンの欲求を満たすためにはこのくらい必要なのかもしれない。

もし、ボライター・シリーズの中から一番面白いものを1冊だけ読もうと思っている人がいるとすれば、僕はつまらないことは考えないで第1作の「沈黙のメッセージ」から読むことを薦める。このシリーズが気に入る人なら絶対次が読みたくなる。そうなった時に第1作から読んでいるのが良いに決まっているからだ。

シリーズものの常として、この作品群もまた登場人物の成長の過程を描いている。だからこそ、第1作から読んだほうが面白いのである。

ところで、帯に書いてあった宣伝文句「この面白さと感動、メジャー級。あのマイロンに隠し子が!? 家族の絆を歌い上げるシリーズ最新作」──これを書いた人に僕は言いたい。「1日も早く『週刊女性』の記者に転じたほうが良いですよ」と。

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