『贋作「坊ちゃん」殺人事件』柳広司(書評)
【4月27日特記】 「殺人事件」だけ余計かな、これは。
夏目漱石の「坊ちゃん」の「贋作」としては大変よくできている。時代というハンディキャップを乗り越えてよくここまでこなした。いやはや器用、器用!という感じ。
原作をよく読み込んで綿密に研究した上で書かれている。原作のキャラクターがそのまま巧妙に活かされているのに驚嘆させられる一方、なんとなく贋作っぽい嘘くさい臭いが残っているのも多分作者の計算どおりで、結構楽しんで読める。
ただ一点、「殺人事件」であるところだけがまさに余計で、しかし逆に、この作品のミソでもある。
あの「坊ちゃんの」登場人物と背景を借りて、いやはや殺人事件がでっちあげられるとは!
そういう知的好奇心を十二分に満足させてくれる、いわば知のイタズラである。
さて、その知のイタズラ部分を除いて、「殺人事件」だけを取り出してみると、どうにも心許ない。そう思うのは進行や謎解きに「無理がある」とか「ちゃちだ」とか言うことではなく、単に漱石の「坊ちゃん」に慣れ過ぎているからだろうか。
でも、夏目漱石の原作を読んでいない人がこの作品を読んで果たして楽しめるのか?
多分楽しめないと思うなあ。あるいは楽しみは3分の1以下になると思う。
そう考えると、やっぱり「殺人事件」だけ余計かなと思う。でも、この余計な部分がくっついているところが作品の魅力でもある。
ふむ、感想がぐるぐる回ってしまう。
Comments