『神は日本を憎んでる』ダグラス・クープランド(書評)
【4月20日特記】 ポップな文章だ。そして、装丁も含めてとてもポップな仕上がりの本である。しかし、この本はキツイ。内容が、ではなく、この日本語を読まされるのがキツイのだ。
作者のクープランドのことをよく知らなかった僕は、最初は外人が日本語で書いた文章だと思った。そうではないと判って、じゃあ翻訳が下手なのかと考えた。
確かに訳文に問題はある。原文の雰囲気を残すために意図的にやった部分もあるのかもしれないが、この訳者は、日本語の文節をどういう順番で繋げたら日本人の理解しやすい文章ができるのかが全く解っていない。単語を逐一置き換えることではなく、意味から意味へと変換するのが翻訳の本意なのに、そのことを(あえて)放棄している。江口研一という訳者は、多分口語英語の使い手としては相当な人なのだろうが、そのことが日本語に悪影響を残していると思う。
しかし、問題は翻訳のテクニックだけではない。
日本語で書かれた文章なのに、背後に流れているのは the American/Canadian way of thinking なのだ!
そんなこと、翻訳文学ならどれでもそうだ、と言われるかもしれないが、この本の場合主な登場人物は全員日本人なのである。日本人がアメリカ人みたいな発想で行動して、およそ言いそうもない American Jokes を連発しているのを読むのは、非常に落ち着かない。
それが証拠に、主人公ヒロがカナダから帰国した後の文章はそんなに抵抗なく読める。それはヒロが、昔で言えば「洋行帰り」、今で言う「帰国子女」という「伝統的日本人社会のはみ出し者」として再規定されるからではないだろうか。
作者は日本人を描きたかったのかもしれないが、その意図に反して日本人読者はアメリカ/カナダを感じてしまうのである。
何も日本人を主人公にする必要はなく、在日外国人が主人公でも良かったのではないか。いや、一番の問題は、ヒロが一人称で語っていることだ。たとえヒロが日本人でも、それを外国人の目で見て三人称で語っていれば、日本人にはもっとスムーズに読めたはずである。
内容のほうは、「神と一緒になって日本を憎んでいる」僕のような者にとっては共感の得られるものであったのだが・・・。
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