『25時』デイヴィッド・ベニオフ(書評)
【3月10日特記】 シブいのである。そしてカッコイイ。しかし、これは24時間後に刑務所に入る白人男性の物語なのである。普通は渋くも格好良くもあるはずがない。実は彼の心は絶望と栄光の記憶の間を行き来しているのである。
主人公モンティの揺れる胸のうちと、取り繕って微動だにせぬ外観、そして冬のニューヨークの風景。抑制の効いた文章によって、時間はきわめてゆっくりと流れて行く。
「こういうものが書ける作者は一体何者なのか?」と思って「訳者あとがき」を読むと、ナイトクラブの用心棒、教師、ラジオ局のDJ、雑誌記者など、若くして職を転々としていたことが判る。こういう経歴がなければ、きっとこういう小説は書けないのだろう。
古い価値観なのかもしれないが、男性的な魅力にあふれる長編小説である。
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