『ミスター・ヴァーティゴ』ポール・オースター(書評)
【2月16日特記】 確かにいつもの柴田元幸の翻訳によるいつものポール・オースターではある。しかし、オースターがこれほどメルヘンであったことがあるだろうか?
オースターにはデビュー以来一貫しておとぎ話的なところはある。しかし、決してメルヘン的ではなかった。たとえオースター・ファンであっても、「メルヘンはちょっと、敵わないな」という人はお読みにならないほうが良いかもしれない。
もちろん「メルヘン的」とは言っても、白馬に乗った王子様が眠れる森の美女を救うような話ではない。いつものオースターらしく、一人の男をめぐる有為転変の物語である。ただし、彼の作品独特の「辛さ」が、今回は「純真」に置き換えられているような気がする。そのあたりをどう評価するか?
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