Wednesday, April 11, 2018

『十代に共感する奴はみんな嘘つき』最果タヒ(書評)

【4月10日 記】 僕は映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』を観るまで最果タヒの存在を知らなかった。痺れるようなタイトルである。映画そのものが一遍の詩のような世界だったので、その原作者に(しかも、その原作が詩であったのでなおさら)興味を覚えた。

タヒってなんて変な名前だ、と思った。本人が何を思ってそんな名前をつけたのか知らないが、僕が連想したのは「死」という漢字だ。そこから「一」を取り除くと「タヒ」になる。最果ての地での死から一を減じた詩人。僕は何かを読まずにいられなくなった。

Kindle 版が出ている作品で選んだらこれだった。で、読み始めて初めてこれが詩ではなく小説だということに気づいた。ああ、小説も書く人だったんだ。

読み始めてすぐに思ったのは、この作家、デビュー時の綿矢りさよりも言葉が切れるな、ということ。

一人称で語られる主人公・唐坂カズハは女子高生。感覚が鋭敏で、思いばかりがつんのめって、言葉が脳内に溢れ返って、必死で背伸びする老成した甘ちゃんで、制御できない思いを抱えていて、でもそれほど必死にもなれない、矛盾だらけの存在。

その彼女が語る言葉は、大人の読者の目には女子高生の幼稚な思考に見える。自分にもこんな面はあったと自覚しながら、ちょっと嫌な感じにもなる。

全てが否定から始まる──何にでもそんなに目くじらを立てていると、それはあまりに窮屈ではないか、と思いながら読み進む。

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Wednesday, April 04, 2018

『ファンベース』佐藤尚之(書評)

【4月3日 記】 佐藤尚之さんには昔からいろんな分野でいろんな著書があるが、この辺に繋がるテーマで言うと『明日の広告』『明日のコミュニケーション』『明日のプランニング』の3冊だろう。

それらの本と比べると、ここでのさとなおさんはその3冊におけるような、“理論を構築して広告を体系化し、新しい時代のコミュニケーションを主導する旗手”というような(御本人は笑われるだろうが)スター的な印象が薄い。

あの3冊の本がそれほどインパクトが強かったということもあるが、ここには CM製作の現場の人というイメージもないし、SIPS のような目を瞠るような新理論もないし、未来を見据えるプロフェッショナルというようなカッコ良い感じがない。

なぜならこれがファンベースの本だからだ。

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Tuesday, March 13, 2018

『人魚の石』田辺青蛙(書評)

【3月13日 記】 この妙ちきりんな小説の書評をどこで読んだのかは忘れてしまったが、ともかく妙に惹かれて読んでみたら、これまた期待を裏切らない妙な小説で、ずるずると引きずられるように読んだ。

人魚の話である。それから石の話である。

人魚と言っても、上半身はグラマラスな美女、下半身は尾ひれのついた魚、というアレではなく、イメージとしてはむしろギレルモ・デル・トロの映画に出てきそうな存在。有り体に言うと、色白のつるんとした肌の素っ裸のおっさん(あるいは兄ちゃんかもしれないが)である。

主人公は祖父が住職をしていた田舎のおんぼろ寺を継ぐべく越してきた若い僧侶である。それが庭の掃除をして、池の水を抜いたら水底で眠っていたその人魚が目を覚まして出てきたという、昨今流行りのテレビ東京みたいな話である。

で、その人魚がなんともぐうたらで、その割にはろくなことをしない。僕が読んだ書評では確かこの小説を『雨月物語』になぞらえていたが、僕は『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男を思い出した。

それで、序盤は『ゲゲゲの鬼太郎』の一場面みたいな、と言っても妖怪を退治する鬼太郎のシーンではなく、ねずみ男が余計ないたずらをして事態をややこしくしてしまうような話がだらだらと続くのである。

一体どのような知性がこのような物語を紡がせるのだろうと、僕は半ばにやけながらだらだらと読んでいた。

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Wednesday, February 14, 2018

『JKハルは異世界で娼婦になった』平鳥コウ(書評)

【2月14日記】 Web で連載されて随分評判になった異世界転生小説だと聞いて興味を持ち、Kindle に落として読んだのだが、端的に言うと、「なんじゃ、こりゃ?」という感じ。

JKのハルが交通事故に遭う。彼女を庇おうとして一緒に死んでしまった同級生で“陰キャ”の千葉セイジと一緒に、気がついたら異世界にいたという話。

そこはとんでもない“男尊&女卑”の世界で、千葉は何だか知らないけどチート能力を持っていて冒険者になって、結構上の地位まで上がって行く。ところがハルには何の能力もないので娼館で働くしかなかったのだが、そこでハルはハルなりのやり方で頭角を表して行く。

で、娼婦の話なので当然セックスの描写がふんだんに出てくるのだが、それがあまりにモロな表現のオンパレードなので、読むほうからしたらポルノにも官能小説にもなってくれない。

文章はほとんどが会話(しかも、JK らしい表現による会話)で、深い描写や洒落た表現があるでもなく、異世界の構造もなんとなく幼稚で薄っぺらい。

んでもって、「おいおい、これで終わりかよ」と思ったら実はその後に短くない続きがあり、まだ続くと安心してたら急に、「おいおい、それで終わっちゃうのかよ」という終わり方なのである。

ドラマツルギーを創生するとか、撒いた伏線を回収するとか、そういう伝統的な手法を著者は全く重んずる気がないのである。

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Wednesday, January 17, 2018

『神秘大通り』ジョン・アーヴィング(書評)

【1月17日記】 ジョン・アーヴィングの14作目の長編小説である。僕がアーヴィングについて書くときはいつも「ここにあるのはいつものアーヴィングである」という同じ出だしになるのだが、それは本当にいつものアーヴィングがここにいるのだから仕方がない。

例によって登場人物のうちの何人か(しかも、そのうちのかなり重要な人物)は障碍を負っている。あるいは事故に遭って障碍を負う。自分から男の体にまたがるような、セックスに対して積極的な女性が出てくる。同性愛者が出てくる。作家が出てくる。サーカスが出てくる。

今回も上下巻にまたがる巨編であり、主人公の、ほとんど生涯にわたる物語である。そして、その途中でたくさんの人が死ぬ。

そんないつもの物語の中で、僕は今回はとりわけ「とりとめもない」という感じがした。小説としてはもちろん途中にいろんな展開を含んでおり、それによって筋が運ばれるのであるが、そのエピソードの一つひとつが、いつに増して非常にとりとめもない感じがした。

足を車に轢かれたり、ライオンに噛みつかれたり、エイズになったり、本人たちにとっては非常に重く残酷な事態なのだが、その一つひとつがまるでとりとめもない感じで進んで行くのだ。

訳者はあとがきで「陰惨な物語となってもいいはずなのだが、なぜだかからっと明るく賑々しい」と書いているが、僕はそんな屈託のない感じではなく、(これはいつものアーヴィングの態度なのだが)それぞれにとっては悲惨な事故でも、世間から見ればとりとめもないものだと言っているような感じがした。

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