Tuesday, August 14, 2018

『国宝』吉田修一(書評)

【8月14日 記】 『パレード』『春、バーニーズで』『悪人』『さよなら渓谷』『横道世之介』『怒り』と、映画化/テレビ化されたものを映像でたくさん見てはきたけれど、実は吉田修一を読むのは初めてである。

読み始めての第一印象は、「あれ、こんな文章を書く人だったの?」という感じ。文字と映像では随分印象が違う。その一方で、「ああ、でも、この人の書くものは次々とドラマ化されるはずだわ」という気もする。

読み始めてすぐに連想したのは五木寛之の『青春の門』だった。僕らの世代にとっては青春のバイブルである。

ともに主人公は少年、舞台は九州である。『青春の門』の信介の父親は『国宝』の喜久雄の父親と違ってヤクザではなく炭鉱夫だ。だが、同じように肝の座った男である。そして、父親亡き後、信介の親代わりになってくれた塙竜五郎がヤクザだった。

幼馴染で主人公を慕う女の子も出てくる。信介にとっての織江が喜久雄にとっての春江だ。

ヤクザ一家の宴席で喜久雄は歌舞伎を舞う。ヤクザの話に似つかわしくない冒頭である。タイトルが「国宝」だし、なるほど、そっちの方に進む話なのか、と察しがつく。

しかし、案の定、そこに対抗する組の襲撃があり、大乱闘の末、父は殺され、組は離散となる。

のちに喜久雄は父の敵討ちを画策するが失敗し、学校にもいられなくなり、父が死んだ宴席にたまたま招かれていた歌舞伎役者に引き取られて大阪に出る。そして、そこの跡取り息子の俊介と仲良くなる。

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Monday, August 13, 2018

『夢印 MUJRUSJI』浦沢直樹(書評)

【8月12日 記】 先日 WOWOW で浦沢直樹のドキュメンタリを観たのが引き金になったのか、本屋でこの本が平積みになっているのを見た瞬間にどうしてもほしくなった。

僕にとっては『20世紀少年』に次ぐ2作目の浦沢直樹(そう、僕は『YAWARA』も『MONSTER』も読んでいない)。

ビッグコミックオリジナルに連載していたらしいが、単行本では1冊である。

さて、読み終えたときのこの徒労感は何だろう?

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Thursday, August 09, 2018

『もう「はい」としか言えない』松尾スズキ(書評)

【8月9日 記】 初めて松尾スズキを読んだ。芥川賞の発表前に読み始めたので、ひょっとしたら僕が読んでいる途中で受賞するかもしれないと思ったが、主人公の海馬五郎同様、世の中そんなにうまい具合には進まない。

表題作と、同じく海馬を主人公とする『神様ノイローゼ』の2篇が収められているのだが、僕には後者のほうが面白かった。

表題作においては、劇作家の海馬がある日、妻に浮気がバレてしまう。いや、普通にバレるという状況よりももっと怖く、何故だか妻は知っているのだ。どこまで知っているのかさえ定かに掴めないのだが、とにかくかなりのことを知ってしまっているのだ。

恐ろしい設定だ(笑) よく考えられた設定だ。

ここで取り乱してワーワー泣き叫ぶような妻であれば、言い方は悪いが離婚してそれで終わりになる。しかし、妻は落ち着き払っており、別れるとも言わないし、いくつか条件を提示してきて、その中に2年間毎晩自分とセックスをする、というのがある。

これは実際にはありそうもない設定ではある。もちろん五十男の海馬には辛い仕打ちだが、妻にとっては仕打ちにならないのかどうか、考えるとよく分からなくなる。

が、小説というものは別にありそうもない設定であっても構わない。非常によく考えられた面白い設定だ。なんならこのジャスト・ワン・アイデアで最後まで物語を引っ張っても良かったのだが、著者は突然別の設定を用意する。

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Friday, July 06, 2018

『英会話 ウケる例文練習帳』デビッド・セイン、近藤 祐次(書評)

【7月6日 記】 デビッド・セインの本は何冊か読んでおり、この本も安心して手に取った(いや、正確に言うと、この電子書籍も安心してポチッとしたw)。

この本の良いところは、日本人なら誰もこれがイディオムだとは認識していない用例を集めたところである。

無論読めば凡その意味は解るのだけれど、ああ、なるほど、そういうニュアンスなのか、そういう時に使うのか、ひとまとまりの表現として憶えておけば便利なのか、という日常的な表現を集めてあるところである。

例えば、Don't ... me, I'll という表現。

Don't ask me, I'll just get answer wrong.

という英文を見て訳せと言われれば、大体のところは訳せる。しかし、逆に「私に訊かないで、きっと間違うから」という訳文を見せられて、これを英語にしろと言われると、並の日本人なら、

If you ask me, I think I will make a mistake. So don't ask me.

みたいなとても冗漫な表現になりかねない。しかし、「もしもあなたが私に訊いたら」をすっ飛ばすと、こんなにもスピード感のある英語になるのだ。

そういうことを僕らは憶えておきたい。

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Thursday, June 28, 2018

『ふたたびの微分・積分』永野裕之(書評)

【6月28日 記】 「眠っていた数学脳がよみがえる!」というキャッチコピーがずっと気になっていた本なのだが、いざ読んでみるとひとつだけ残念だったことがあって、それは高校で習った微積分とほぼ同じ内容であったことである。そういう意味ではまさに題名のとおりである。

「自分は文系だったからこんなのは習っていない」と言う人も少なくないのかもしれないが、幸か不幸か、僕は文系だったけどこの辺りのことはほとんど高校で習った。もちろんそれらを全部憶えていたはずもないのだが、読み進むうちに結構甦ってくる。

かくして甦ったのは数学脳ではなくて、単に高校の数学の授業の思い出であったのかもしれない(笑)

ただ、高校の教科書に比べると、説明が丁寧で、式の展開もきわめてゆっくり進めてくれるので、何十年ぶりに微積分に取り組む年寄りにとっては極めて親切な本である。

式の展開のような、途中のところで訳が分からなくなって嫌になるというのは非常によくある話である。例えば m×n の行列式の方程式だったりすると、そんなことは頻繁にあった。

その点この本はいっぺんにたくさんのカッコを開いたり、いっぺんに多くの数式や数値を代入したりということがないので、いろんなことを確認しながらまさに牛歩の速度で進んで行けるのである(笑)

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Wednesday, June 06, 2018

『月の満ち欠け』佐藤正午(書評)

【6月6日 記】 佐藤正午は、それほど多く読んではいないが、好きな作家の一人だ。この小説も、直木賞を獲る前から気になっていたのだが、近年僕は紙の本を読まないので、Kindle版が出るのを待っていたら、こんなに遅れてしまった。

登場人物と時代が錯綜するので、読んでいてこんがらがってくる小説である(僕のように物覚えの悪い読者は、冗談抜きで、メモを取りながら読むべきなのかもしれない)。

読み始めて最初に出てくる小山内という初老の男が主人公かと思ったら、そうではなくて、高田馬場のビデオショップに務める三角という学生の恋愛物語かと思ったら、そうでもなくて、なにやら不思議な話のようだ。

ひとことで言ってしまうと、前世の記憶を持って何度も生まれ変わる女性の話。前世どころか、その前の世もそのまた前の世の記憶も全部ある。そして、彼女が早逝した場合は、同じ男性の前に違う女性となって何度も立ち現れることになる。

その辺りの謎が少しずつ語られるために、読者はもう途中でやめることはできなくなり、いや、それどころか、その先が知りたくて更にスピードを上げて読み続けることになる。

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Monday, May 21, 2018

『ドーン』平野啓一郎(書評)

【5月21日 記】 平野啓一郎は確かデビュー作にして芥川賞を受賞した『日蝕』を読んだと思う。例によってどんな話だったのかまるで憶えていないのだが、如何にも若気の至り、と言うか、若者にありがちな衒学的な、絢爛たる文体だったのは憶えている。

そこに若い頃の自分を映したような近親憎悪めいたものを感じたので、嫌気が差してそれ以来読んでいない。

今回20年ぶりに読んでみて、あれ、この作家ってこんな作家だっけ?という印象が非常に強かった。

まず、これは SF ではないか? SF を書く人だったの?

宇宙船ドーンで人類初の火星探査に成功して帰還した宇宙飛行士・佐野明日人の物語である。舞台は2036年のアメリカなのだが、この時代の設定が非常に巧みである。

そこには NASA もあり(同じように日本には JAXA があり)、米軍は東アフリカの戦争に介入しており、共和党と民主党の候補が大統領選を争っている、というような設定は現代のものをそのまま延長している。

一方で、この時代には AR の技術が発達し、誰でも閲覧できる街の監視カメラ網があり、自由に顔を変化させる可塑整形手術なるものが開発されている。

対人関係ごとにいろいろな人格を使い分ける分人主義(dividualism)が人々の一般的な生き方になり、誰もが加筆修正できるウィキペディアの小説版であるウィキノベルが流行し、国土を持たないネット国家“プラネット”の国籍を持つ人々がいる。

──等々、もっともらしく作り上げられているだけではなく、それら一つひとつの設定が機能的に絡み合って、ストーリーを見事に駆動して行く。

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Wednesday, April 11, 2018

『十代に共感する奴はみんな嘘つき』最果タヒ(書評)

【4月10日 記】 僕は映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』を観るまで最果タヒの存在を知らなかった。痺れるようなタイトルである。映画そのものが一遍の詩のような世界だったので、その原作者に(しかも、その原作が詩であったのでなおさら)興味を覚えた。

タヒってなんて変な名前だ、と思った。本人が何を思ってそんな名前をつけたのか知らないが、僕が連想したのは「死」という漢字だ。そこから「一」を取り除くと「タヒ」になる。最果ての地での死から一を減じた詩人。僕は何かを読まずにいられなくなった。

Kindle 版が出ている作品で選んだらこれだった。で、読み始めて初めてこれが詩ではなく小説だということに気づいた。ああ、小説も書く人だったんだ。

読み始めてすぐに思ったのは、この作家、デビュー時の綿矢りさよりも言葉が切れるな、ということ。

一人称で語られる主人公・唐坂カズハは女子高生。感覚が鋭敏で、思いばかりがつんのめって、言葉が脳内に溢れ返って、必死で背伸びする老成した甘ちゃんで、制御できない思いを抱えていて、でもそれほど必死にもなれない、矛盾だらけの存在。

その彼女が語る言葉は、大人の読者の目には女子高生の幼稚な思考に見える。自分にもこんな面はあったと自覚しながら、ちょっと嫌な感じにもなる。

全てが否定から始まる──何にでもそんなに目くじらを立てていると、それはあまりに窮屈ではないか、と思いながら読み進む。

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Wednesday, April 04, 2018

『ファンベース』佐藤尚之(書評)

【4月3日 記】 佐藤尚之さんには昔からいろんな分野でいろんな著書があるが、この辺に繋がるテーマで言うと『明日の広告』『明日のコミュニケーション』『明日のプランニング』の3冊だろう。

それらの本と比べると、ここでのさとなおさんはその3冊におけるような、“理論を構築して広告を体系化し、新しい時代のコミュニケーションを主導する旗手”というような(御本人は笑われるだろうが)スター的な印象が薄い。

あの3冊の本がそれほどインパクトが強かったということもあるが、ここには CM製作の現場の人というイメージもないし、SIPS のような目を瞠るような新理論もないし、未来を見据えるプロフェッショナルというようなカッコ良い感じがない。

なぜならこれがファンベースの本だからだ。

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Tuesday, March 13, 2018

『人魚の石』田辺青蛙(書評)

【3月13日 記】 この妙ちきりんな小説の書評をどこで読んだのかは忘れてしまったが、ともかく妙に惹かれて読んでみたら、これまた期待を裏切らない妙な小説で、ずるずると引きずられるように読んだ。

人魚の話である。それから石の話である。

人魚と言っても、上半身はグラマラスな美女、下半身は尾ひれのついた魚、というアレではなく、イメージとしてはむしろギレルモ・デル・トロの映画に出てきそうな存在。有り体に言うと、色白のつるんとした肌の素っ裸のおっさん(あるいは兄ちゃんかもしれないが)である。

主人公は祖父が住職をしていた田舎のおんぼろ寺を継ぐべく越してきた若い僧侶である。それが庭の掃除をして、池の水を抜いたら水底で眠っていたその人魚が目を覚まして出てきたという、昨今流行りのテレビ東京みたいな話である。

で、その人魚がなんともぐうたらで、その割にはろくなことをしない。僕が読んだ書評では確かこの小説を『雨月物語』になぞらえていたが、僕は『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男を思い出した。

それで、序盤は『ゲゲゲの鬼太郎』の一場面みたいな、と言っても妖怪を退治する鬼太郎のシーンではなく、ねずみ男が余計ないたずらをして事態をややこしくしてしまうような話がだらだらと続くのである。

一体どのような知性がこのような物語を紡がせるのだろうと、僕は半ばにやけながらだらだらと読んでいた。

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