Monday, July 17, 2017

映画『彼女の人生は間違いじゃない』

【7月17日特記】 映画『彼女の人生は間違いじゃない』を観てきた。

廣木隆一監督はここのところ(僕の印象としては)請負仕事みたいな作品ばかりで、この人は本当に自分の撮りたい映画を撮っているんだろうか、と余計な心配までしていたところだ。

今回の映画の記事を読んで、タイトルと言い設定と言い、これは多分廣木隆一本来のテーストの作品だろうと期待して観に行った。

タイトルから、最初は単にデリヘル働く女性の話かと思ったら、そうではなかった。福島の地震と原発事故が深く絡んだ話である。そもそもあの地震と原発事故に居ても立ってもいられなくなった廣木監督が、最初は小説として発表したものなのだそうだ。

舞台も福島。主人公は市役所で働くみゆき(瀧内公美)。彼女は週末に高速バスで東京に行き、渋谷でデリヘルのバイトをしている。父親の修(光石研)は津波で妻を失い、残留放射能のため農業もできなくなり、国からの保証金をパチンコに費やす毎日である。

みゆきがデリヘルで働くのは父親の金遣いをカバーするためなのか、あるいはいつまでも立ち直れない父親への苛立ちがきっかけだったのか、その辺りは明確には語られない。

震災をきっかけに別れてしまった元カレ(篠原篤)との痛々しいエピソードも出て来る。

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Sunday, July 09, 2017

映画『逆光の頃』

【7月9日特記】 映画『逆光の頃』を観てきた。

例によってタナカカツキによる原作の漫画は読んだことがない。けれど、これは多分原作が素晴らしいのだろうな、と思った。その原作を高校時代に読んでなんとか映像化したいと思っていた小林啓一が監督。

小林啓一はいろいろ賞も獲っている新進監督、と思ったら、この人もう45歳である。今回は原作から3つのエピソードを選んで映画化している。上映時間1時間ほどの小品である。

舞台は京都。主人公は17歳の高校生・赤田孝豊(高杉真宙)。ストーリーは彼の日常。ドラマティックなところはあまりない。

原作も少ないト書きと少ない台詞で有名だったようだが、この映画も間を大切にして、映像と生活音で孝豊の日常を丹念に伝えている。

特に音が良い。冒頭のシーンの風鈴から始まって、自転車で風を切る音、雨の音、警備員の鼻歌。そこに京都のきれいな景色や建物、そして風物が乗っかってくる。大文字、大きな月、金の糸…。

ときどきびっくりするような良い画がある。何も起きていないようでいて、エピソードの運びが絶妙である。

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Sunday, July 02, 2017

映画『いつまた、君と 何日君再来』

【7月2日特記】 映画『いつまた、君と』を観てきた。

自分のストライクゾーンに今いちピシッと嵌まらない監督がいる。

一度か二度見て「ダメだこりゃ」と思ったというわけでもないのだが、逆にずっと追っかける存在にはならない監督。時々見ると良かったり悪かったりで、評価が定まらないのである。

深川栄洋は僕にとってそういう監督だ。

だから、今回は良いほうだろうか悪いほうだろうか、と思いながら観たのだが、良いとか悪いとか言う前に、こりゃまたえらい作品を撮ったもんだ、というのが第一印象だった。

何とも言えないクラシックな、言うなれば NHK の朝の連続テレビ小説みたいな映画だ。と言っても、僕はもう 10年以上朝の連続テレビ小説を観ていないので、単なるイメージでしかないのだが…。

しかし、パンフを読むと、深川監督は「朝の連続テレビ小説のような映画に」とオファーされたと書いてある。うむ、つまり、まさにこれは尾野真千子の朝の連ドラなのである。

原作は向井理の祖母。彼女が上海での夫との出会い、戦後混乱期の日本への引き上げ、日本へ帰ってからも各地を点々とする苦労に満ちた、しかし明るい毎日を思い起こして綴った文章を、向井理ら家族がかつて自費出版したのだそうだ。

そして、その後向井が映画を望んで動き出し、最終的に今回の企画となった。

脚本を書いたのは向井理の出世作である NHKの朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の脚本家であった山本むつみである。向井が山本に脚本化を依頼し、監督には深川栄洋を指名したとのことである。

主人公の朋子(向井の祖母)を演じたのは尾野真千子、向井はその夫・吾郎、つまり自分の祖父を演じている。朋子の父にイッセー尾形、吾郎の親友に駿河太郎が扮している。

そして、現代のシーンでは朋子を野際陽子(これが彼女の遺作となった)、その娘・真美(つまりは向井理の母)を岸本加世子、向井理を成田偉心が演じている。

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Sunday, June 25, 2017

映画『光』

【6月25日特記】 映画『光』を観てきた。

僕は河瀬直美という監督とは相性が悪い。まず観る気にならない。そして、面白くない。

いや、僕は面白くない映画が嫌いかと言えば決してそうではない。途中ちょっとしんどいなと思いながら、なんとなくやめるのは惜しく、結局最後まで見てああ良い映画だった、なんてこともよくある。

ただ、河瀬直美の場合は、途中ひたすら面白くなくて、やめるのが惜しいかと言えば全然そんなことなく、すぐに嫌になって、もういいやと思う。そういうわけで『萌の朱雀』も『殯の森』も見始めてすぐに投げ出してしまった。

もっとも、彼女の作品は家のテレビで見るには向いていないのかもしれないが。

でも、テーマと言い、テンポと言い、どうも僕の食指は動かない。風にそよぐ森の木の葉みたいなシーンはもういいから、という感じになる。

今回見たのは永瀬正敏が出ていたから。僕は『ションベン・ライダー』から永瀬のファンである。そんなこと言うなら河瀬監督の前作『あん』も永瀬ではないかと言われるかもしれないが、それは知らなかった。それだけ普段から河瀬作品を避け続けてきたということだろうと思う。

永瀬が出ているし、評判も良いので、久しぶりに見てみようかと、今回初めて映画館に足を運んだわけである。

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Sunday, June 18, 2017

映画『BLAME!』

【6月18日特記】 映画『BLAME!』を観てきた。一部で非常に評判が高いみたいだから。アニメの場合僕はいつもそういう見方になる。しかし、これでブレイムではなくブラムと読ませるのは何語でどういう意味なのだろう?

弐瓶勉の20年前のデビュー作漫画を瀬下寛之監督が映像化したもので、同じ弐瓶勉原作のテレビアニメ『シドニアの騎士』の劇中劇(アニメの中で放送されているテレビアニメ)として部分的には一度映像化されているのだそうだ。

で、アニメ制作は『シドニアの騎士』と同じポリゴン・ピクチュアズである。ということは、フル 3DCG である。

僕はシドニアは観ていないから知らないのだが、『亜人』は全部見ている。まさに亜人と同じく疾走感に溢れていて、立体感と遠近感のリアリティは半端なく、そして何よりも光と影の強いコントラストが印象的である。3DCG は画面の外側の特定の位置に光源を設定して、計算によって陰影を描くので、非常にリアルでシャープなものになる。

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Sunday, June 11, 2017

映画『ちょっと今から仕事やめてくる』

【6月11日特記】 映画『ちょっと今から仕事やめてくる』を観てきた。

成島出監督は『八日目の蝉』と『ソロモンの偽証』の印象が強いが、吉永小百合のプロデュース作品につきあわされたり『脳男』の脚本を書いたりと、結構幅広い。それにしても今回のこういうのはまたしても新境地ではないだろうか。

原作はメディアワークス文庫から出版されているベストセラー小説で電撃小説大賞受賞作なのだそうだ。

主人公は青山隆(工藤阿須加)。就活に失敗してなんとかかんとか入った会社は絵に描いたようなブラック企業だった。そこで隆は毎日毎日、絵に描いたような体育会系理不尽パワハラ上司(吉田鋼太郎)に怒鳴られまくっている。

身も心もぼろぼろになり、半ば死のうかという気になってフラフラ歩いていたら、線路に転落して轢かれそうになったところに謎の男(福士蒼汰)が現れて彼を助ける。彼は言う。「久しぶりやのう。俺や、ヤマモトや。小学校以来とちゃうか」と。

ヤマモトに強引に飲みに連れて行かれ、隆はヤマモトのことを今イチ思い出せないが、なんだかよくわからないうちに友だちになってしまう。

そして、ヤマモトの強引で脳天気な励ましとちょっとしたアドバイスで、隆は気分一新して仕事に臨み、トップセールスマンである五十嵐先輩(黒木華)の心遣いも受けて、漸く仕事の成果を上げ始める。

ところが、(予告編でここまで見せているので書いて良いと思うのだが)隆はある日、ヤマモトが3年前に死んでいるいう事実を発見する。

さらに、順調に進んでいた隆の仕事は、自分のミスから灰燼に帰してしまい、また連日連夜上司に怒鳴られ蹴られ土下座させられの針の筵の職場となる。

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Saturday, June 10, 2017

映画『22年目の告白 ──私が殺人犯です──』

【6月10日特記】 映画『22年目の告白 ──私が殺人犯です──』を観てきた。

入江悠監督と言えば、僕にとってはいまだに『サイタマノラッパー』シリーズと『神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』などの自主映画風の印象が強く、久しぶりに作品を見て「いつのまにこんな商用のエンタテインメントを撮れるようになったんだろ?」としみじみ思ってしまった。

原作は韓国映画らしいが、阪神淡路大震災や刑法改正による時効の消滅などを巧くからませており、これはかなり現代の日本向きに書き換えたのだろうなと思う。良い脚本だった(平田研也と入江悠の共同)。

1995年に何の罪もない5人の人間を残忍なやり方で連続的に殺した男が、15年の時効からさらに7年経った2017年に突如「私が殺人犯です」と名乗り出る。それが曽根崎雅人(藤原竜也)である。その登場の仕方のかっこよさはネット上などで一部の人たちにもてはやされる一方で、出版社には抗議のデモが押し寄せるなど、世論は二分される。

彼は手記を出版し、サイン会を開き、テレビにも出演してますます時の人となる。

ここまでは良い。さて最終的にこの話をどう持って行くかに興味が湧いた。そのまま「曽根崎は変質者でした」で終わるわけには行かない。かと言って、「曽根崎は改心しました」は嘘くさい。この後はどう進むのか?

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Sunday, June 04, 2017

映画『武曲』

【6月4日特記】 映画『武曲』を観てきた。「ぶきょく」ではなく「むこく」と読ませる。熊切和嘉監督。時代劇ではない。剣道ドラマである。

で、これは難しいものを観てしまった。いや、解釈が難しいのではなく、評価が難しいのである。

僕には主人公の父子(将造=小林薫と研吾=綾野剛)は共感できる人物ではない。ともに似たような狂おしいものを抱えている。そして、ともに酒浸りになっている。

将造は剣道のことしか考えていない。自分が勝つことと息子が強くなることが全てだ。そのために幼い息子を罵倒して竹刀で打擲し、時には真剣を突きつけ、優勝しなければ意味がないと言って息子の準優勝トロフィーを棄ててしまうような理不尽な父親だ。

研吾はひたすらその父を憎みながら育った。だが、愛憎は表裏一体でもある。防具をつけずに木刀で対決した研吾は父親の頭部を叩いて植物人間にしてしまい、そのトラウマから逃れられず、毎日酒浸りの自堕落な生活を送っている。

父親もまた息子への愛情を素直に表現できない不器用な男だ。だが、僕はそういう不器用さに対して寛容な捉え方にそもそも嫌悪感を覚える。

そして、その2人が防具をつけずに戦うというのが既にスポーツとしての剣道を逸脱しているわけで、そこからして僕はもう共感が持てない。それは剣道ではないだろう? 武士道でもない。酔っ払って暴れるのは武士道ではない。

パンフで綾野剛へのインタビュアーが、「この映画は『そこのみにて光輝く』と共通する点がたくさんあります。あえて類似した構造の物語を再度演じることで『そこのみ』を超えようとする意図があったのでしょうか」と言っているのを読んで驚いた。

僕は『そこのみにて光輝く』には深い共感を覚えた。だが、この父子には乗り切れない。同じ綾野剛出演の映画だが、監督も違うし、その設定には何か決定的な差があるように思う。

でも、映画はすこぶるよく撮れているのである。回りくどくならずに、緊張感を持って流れて行く高田亮の脚本。狂気を演ずる綾野と小林。そして、夜の大雨の中での決闘を含め、殺伐としたムードが全面に漂う近藤龍人の撮影。

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Sunday, May 28, 2017

映画『美しい星』

【5月28日特記】 映画『美しい星』を観てきた。デビュー作『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』に魅せられて、以来ほとんどの作品を見てきた(そして一度も裏切られなかった)吉田大八監督の作品だが、今回は妻の趣味とも合致して、初めて一緒に見に行った。

で、今回も先に結論を書くと、僕も妻も結局のところよく解らなかった。けれど、ものすごく印象が深く、これは何の意味なんだろうと悩みながら、一方で勝手な解釈がどんどん膨らみ、ところどころ妙に納得してしまった。

そして、時間が経てば経つほど、自分の頭の中でこの映画の存在が大きくなって行く気がする。ひょっとするとこれは大傑作かもしれない。

パンフレットを読むと、出演している役者やスタッフがそれぞれいろんな解釈をしているのが解る。どれを読んでも楽しい。こうやって多様な解釈を許す映画は間違いなく良い映画である。

原作は三島由紀夫。読んでいない。が、これはどう考えてもかなり大胆に脚色しているはずだ(ちなみに脚本は吉田大八とチーフ助監督の甲斐聖太郎の共同)。そう思ってパンフを読むと、時代も人物も、エッセンスを残しながら大きく変えてある。

でも、原作が発表された際に、批判も多かった中でひとり高く評価していたという筒井康隆がこの映画を褒めているところからして、この改変は成功だったのだろう。

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Saturday, May 27, 2017

映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

【5月27日特記】 映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観てきた。5月末にして今年初めての外国映画となった。僕は全くのノー・マークだったのだが、妻が観たいと言ったので。これがアカデミー脚本賞と主演男優賞を獲った映画だということも知らなかった。

で、結論を先に書くと、さすがに賞を獲るだけのことはある、素晴らしい映画だった。と言うか、まだアメリカ映画にもこういう作品があったのだと驚いた(普段あまり外国映画を観ないということもあるんだろうが)。

マッチョなヒーローもタフなヒーローも出て来ない。かと言って型破りなヒーローが抱腹絶倒の大暴れして、個性こそが一番大事、と暗にアピールするでもない。

主人公のリー(ケイシー・アフレック)は有能な便利屋ではあるけれど、コミュニケーション能力ゼロで、顧客とのトラブルが絶えない。無愛想で酒癖が悪く、酔うとすぐにけんかを売って殴り掛かる。手に負えない暗い男である。

そんな彼が、兄が死にかけているとの連絡を受けて、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに帰る(ちなみに他地区のマンチェスターと区別するためにこう呼ばれることが多いというようなことではなく、バイ・ザ・シーまでが正式な地名である)。

一足違いで兄は死んでしまい、その遺言によって、ひとり残された16歳の甥パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人になるために、彼はその街に居残らざるを得なくなる。でも、その街は彼にとってはとても辛い思い出の場所なのである。

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