Tuesday, December 27, 2011

『日本のセックス』樋口毅宏(書評)

【12月27日特記】 昔から「ポルノは善か悪か、あるいは必要悪か」とか、そもそも「ここまでは芸術、ここから先はポルノ、みたいにきっちり分けられるものなのか」とかいう議論は幾度となく繰り返されてきただろうが、そんなものは分けられるわけがないし、どっちかが善でどっちかが悪なんてこともない。

同じものでもある角度から見れば芸術で別の角度から見たらポルノ、なんてこともなければ、同じものでもあるときは芸術になり、またあるときはポルノになる、なんてこともない。そもそも分明な境界の存在を想起するのが間違いで、ポルノを切り分けることも、それだけを規定することも無意味であると私は思っている。

ところが、この小説を読み始めて端的に持った感想は、「これはポルノである。ポルノ以外の何ものでもない!」ということであった。しかも、そこら辺のポルノではない。結構突き詰めた究極のセックスの姿なのである。

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Tuesday, November 29, 2011

『翼』白石一文(書評)

【11月29日特記】 この作家を読むのは『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』以来2作目であるが、読みながらまず思ったことは、あれ、こんなに巧い作家であったかな、ということである。

いや、それよりも、あまりにトーンが違うので、ひょっとしたら自分は何か勘違いをしているのであって、『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』の著者とは別の作家なのではないかと思ったほどである。

この作品では主人公は女性である。それがとてもよく書けている。女性の読者がどう感じるかは分からないが、男性の読者からすれば、ひょっとして書いているのも女性なのではないかと思わせるくらいの出来だと思う。

そして文章がとてもスムーズに流れて行く。本当に巧い文章というのは読んでいる者が巧いとも下手だとも感じる隙を与えない文章である。これくらいこなれた文章を書ける作家にはそうそう巡り会えるものではない。

前に読んだ時には、多分この作家は派手目のストーリーをうねらせて行くことが得意なのだろうと思った。しかし、今回は非日常的な面もあるが、決してドラマチックな展開でもなければサスペンス・タッチの進行でもない。むしろおとなしく観察された深い物語という気がする。

そんなことを思いながら一年半前に自分が書いた書評を読み返すと、「まっすぐに死生観に繋がって深く掘り下げて行く、むしろ一途な感じの作品なのだと思った」とある。ああ、そうか、その部分はずっと共通なんだ、と思う。

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Friday, November 18, 2011

『考える短歌』俵万智(書評)

【11月18日特記】 世の中にテクニカルに解決できることは意外に少なくない。挨拶するとか敬語を使うなどというのもつまらない争いを避けるためのテクニックである。それを「人として当然身につけておくべきこと」とか「先輩を敬う気持ち」などと言い始めると途端にややこしくなる。

そういうことは表現という行為のなかにもある。「見たまま感じたままを表現せよ」「細部を削ぎ落して本質を描け」などと抽象的なことを言われてもどうすれば良いのか分からない。

芸術というものはとかくそんな風に伝承されてきたのだが、そんな中で表現の難しさをテクニカルに解決する術を教えようとする本書は本当に良書であると思う。

僕は『サラダ記念日』の頃からの俵万智ファンである。ただ僕自身は、ごくまれに戯れに短歌らしきものを詠んでみることもないではないが、日頃から短歌に親しんでいる訳でも何でもない。

しかし、それでもこの本が、表現という問題を如何に見事に解決しているかはよく解る。これは短歌をやっている人だけに通じるものではない。例えばポップスの作詞をしている人なんかにも大いに役立つはずだ。

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Saturday, November 12, 2011

『ゴーストハント5 鮮血の迷宮』小野不由美(書評)

【11月12日特記】 ずっと気になっていた小野不由美を初めて読んでみた。初めて読むのにシリーズ物の第5作とは如何なものかと我ながら思うが、買った時には気づいていなかったのだからしょうがない。

で、残念ながらこれは僕が好きなタイプの小説ではなかった。

ふーん、京大推理小説研究会出身ですか。その割には設定・進行ともに随分マンガっぽいね。まあ、そのあたりが僕があまり好きではない所以なのだけれど、でも、まあ、そこそこ面白かったのは事実である。

多分シリーズ第1作から順序正しく読んできていたら、恐らく読んでいるうちにレギュラーのキャラがしっかり立ってきて、随分楽しみ方も深くなったのではないかと思う。

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Wednesday, October 26, 2011

『明日のコミュニケーション』佐藤尚之(書評)

【10月26日特記】 さとなおさんの『明日の広告』に続く本である。よく売れているらしい。この手の本としては初版が25,000部というところからして破格なのに、発売10日ほどでもう増刷が決まったと言う。

しかし、そんなことは当たり前なのである。何故なら僕らはもう買う前に読んでいるのだから。

僕らは日々 www.さとなお.com で彼の言説と日常に触れ、さまざまなソーシャル・メディアを通じて彼の感じ方を知り考えを学んでいる。僕の場合は twitter や facebook での交流もあり、たまに直メールでのやりとりもあり、講演を聞かせていただいたことも何度かあり、もっと言えば短い時間だが直接お会いして言葉を交わしたこともある。

当然彼の前著『明日の広告』は読んでいるし、この本にも登場する電通の京井良彦さんの本も、あるいは同じ電通の岸勇希さんの本も、はたまたさとなおさんの古巣の電通とは最大のライバル会社なのに一緒に何度か仕事をしている博報堂の須田和博さんの本も読んでいる。

「いや、自分はそこまでの交流はない」「読むのはこの本が初めて」などと言う人もいるだろうが、濃淡の差こそあれ、みんなすでに何らかの形でさとなおさんと繋がっている、あるいは繋がり始めているのである。

なにしろさとなおさんのサイトのアクセスカウンターはなんと4,000万を回っているし、twitter では60,000人以上がフォローしているし、facebook には1,200人を超える「友達」と400人を超える「フィード購読者」がいるのである。

僕らはもうこれらの全てのメディアを通じて、もうこの本を買う前からすでに彼の考え方・感じ方を読んで知っているのである。

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Thursday, October 13, 2011

『ばらばら死体の夜』桜庭一樹(書評)

【10月13日特記】 読み終わって最初に思ったのは、巧いな、ということだった。

前から巧かったのかそれとも巧くなったのかは判らない。ただ、少なくとも僕が1冊だけ読んだ『赤朽葉家の伝説』ではこんな巧さは感じられなかったように思う。あれだけ長いスパンの物語になると、どうしても筆が先走りして描写が荒っぽくなっていた印象が強い。

今回は、言わば何代にも亘る壮大なサーガを描きたいという野心からから解き放たれて、ほぼ人間の一生に相当するくらいの長さに絞り切れたことによって、物語のほうからこの作家にとって一番得意な領域に入ってきたような気がする。

さて、この小説では冒頭で殺人が描かれる。しかし、最初に殺人があって最後に犯人が捕まるという小説ではない。いや、実際小説の中で犯人が捕まるかどうかを言っているのではない。そういう表現軸では描かれていないということを言っているのである。

殺人犯がどこまでも逃げ切るというクライム・ノベルでもない(これも逃げ切るかどうかを云々しているのではない)。もっとねじれた、いや、まっすぐだけれど斜めに傾いた座標軸に捉えられた物語であるような気がする。その傾きこそがこの小説の命なのではないだろうか。

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Saturday, September 03, 2011

『Hotwax presents 歌謡曲 名曲名盤ガイド 作曲家編 1959-1980』高護編著(書評)

【9月3日特記】 知っていたらもっと早く買っていたのですが、出ていることを知らなかったので慌てて買いました。絶版にならないうちに気づいて良かったです。このシリーズ、前にも記事にしましたが、僕が買ったのはこれが3冊目です。

『Hotwax presents 歌謡曲 名曲名盤ガイド 作曲家編 1970s』(これについては書評も投稿して掲載して頂きました)と『1980s』を持っています。『1960s』は時代的に少し面白みに欠けるので買いませんでした。ちなみにこの3冊はすでに一般の書店では手に入らないようです。

言わずと知れた、歌謡曲研究者の第一人者・高護先生の編著です。まだ冒頭数ページしか読んでないのですが、いやあ、予想した通りの宝物みたいな本ですね。

『19X0s』のシリーズは言わば編年体の正史であるのに対して、こちらは紀伝体。まさに司馬遷の『史記』のような血湧き肉躍る読み物になっています。『19X0s』シリーズの後に『歌謡曲番外地』シリーズのような文字通りの番外編がいくつか出たので、まさかこういう形で日本ポップス史が編み直されることになるとは予想していませんでした。

高護先生についてはここではあまり多くを語りませんが、僕がまさに心酔している研究者です。これほどよく聴きよく知っていて、これほど的確な分析と表現を操り、かつ、マニア的ヲタク的な視点をしっかり保持している人は他にはいません。

最初の数章の目次(即ち取り上げた作曲家名)を紹介しておきましょう。

中村八大、浜口庫之助、宮川泰、いずみたく、鈴木道明、平岡精二、すぎやまこういち、鈴木邦彦、…。

ここまで読んでうっとりした人は、最後までその気持ちが続くこと請け合いです。整然と並ぶ膨大なレコード・ジャケットの写真を見ているだけでも飽きません。

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Saturday, August 27, 2011

『もてなしごはんのネタ帖』山脇りこ(書評)

【8月27日特記】 知人の料理研究家・山脇りこさんの初めての本(電子出版は除く)である。

まず、何が素晴らしいって、写真がきれい!

──なんて書くと、りこさん、ちょっとがっくりするかもしれない。そう、見た目がきれいでも食べたら大したことない料理って世の中に意外に多いもので、そういうことを考えると、写真ではなくレシピを褒めるべきなのだろう。しかし、入り口としてはこれはとても大事なことなのである。

写真がきれいだとまず美味しそうに見えるという利点がある。そして、もうひとつのメリットは作ってみたい気になるということである。本は残念ながら直接食べられないので、本当に美味しいかどうかをすぐに確かめることはできない。そうなると勝負は作ってみたい気にさせるかどうかで、そういう意味からするとこの本は大正解なのである。

で、読めばすぐに解ることだが、多少とも料理を嗜む者が見ると、「なるほど、その組合せは旨そうだ」というレシピが次から次へと並んでいるのである。そして、いざやってみるとあまり面倒な料理はない。時間のかかる下拵えも必要ないし、手に入りにくい食材も使っていない。

この手の“きれいな料理本”にありがちなのは、「そんなもんウチの近所のスーパーで売ってまへんがな。ああ、この人は僕らと住んでる世界がちゃうわ」などと思わせてしまうことだが、そういう面は全くない。ちょっと小洒落た調味料や酒類、こだわりの薬味などが出て来るところもないではないが、でも、それがないから作るのを断念しなければならないようなものでもない。

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Monday, August 08, 2011

『恋文の技術』森見登美彦(書評)

【8月8日特記】 本屋で見つけて何となく惹かれて買った。文庫が出てから読むのは最近の僕としては珍しいことである。

書簡小説の形を採り、恋愛の指南書のように見せかけて、実はいつも通りイカキョーの情けない青春をペーソスたっぷりに描いた小説である。特に何人かの登場人物の書簡を、交互に時系列に並べるのではなく、人ごとにまとめる構成にしたのもアイデアである。

そういう意味では非常に森見登美彦的な作品でもあり、いつもの森見を超えた小説でもある。ただ些か遊びすぎの感がなきにしもあらず、なのである。

いや、遊ぶのはいつものことで、いくら遊んだって構わないのだが、しかし今回はそれが少し上滑りしてはいないかい?という感じ。

面白い読み物に仕立てようとするあまり、如何にも作り物感があって嘘っぽい。日本語の物語は誇張が過ぎると滑ってしまう典型のような気もする。

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Wednesday, July 13, 2011

『東京バンドワゴン』小路幸也(書評)

【7月13日特記】 そもそもは青山真治監督の映画『東京公園』を観たのがきっかけだった。好きな監督だし、この作品も見事な出来であった。

そして、僕はその原作者である小路幸也という小説家を全く知らなかったのだが、そのパンフに、「そもそも小説『東京公園』は担当編集者の『小路さんの<何も起こらない物語>が読みたい』というリクエストから始まりました」と書いてあったのに強く惹かれたのである。

いや、別に何も起こらない話が好きなのではない(嫌いではないが)。ただ、何も起こらないのに面白いということは、書いている作家が突出した文章力、表現力の持ち主であるという証明である。映画がこれだけ面白いのだから、小説もきっと面白いのだろう。

ということは小路幸也という作家は飛び抜けて文章の巧い作家であるはずだ。ならば、これを読まない手はない──ということで本屋に走ったのだが、あいにく『東京公園』は置いておらず、目に入ったのが『東京バンドワゴン』であった。

ああ、この本なら聞いたことがある。結構話題になった本だ──ということでこれを買い求めて読んだのだが、残念ながら、これは僕が思ったような本ではなかった。

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