Sunday, December 27, 2009

『フリー』クリス・アンダーソン(書評)

【12月27日特記】 『ロングテール』は僕が今までに読んだ Web 関連のマーケティング論の中では抜きん出て面白く説得力のある書物であった。そして、同じ著者によるこの本も、前作ほどのインパクトはないものの、論点はしっかりしており、真摯な調べ方をしているのが伝わってくるし、立ち位置も非常に好感が持てる。

出版界の人間がこういう本を書くと往々にしてインターネットに対する偏見と憎悪だけが前面に出たものになりがちなのであるが、さすがに『ワイアード』編集長である。時流を正しく見抜いている。

ここでは内容についてはあまり深く触れないでおく。要はロングテールの次はフリーなのだ。そして原題"FREE"には"THE FUTURE OF THE RADICAL PRICE"という副題がついている。そう、確かにフリー(無料)と言うよりも、急進的/過激な価格(の変動)と言った方が論旨が伝わるかも知れない。

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Friday, November 27, 2009

『Twitter 社会論』津田大介(書評)

【11月27日特記】 上手にまとめた良書。それは学者が傍から見て書いた文章ではなく、筆者自身が流れの真っ只中にどっぷり浸かって身を以て体験したものを書き記しているからだろう。

twitter の歴史、特徴、具体的な利用法、社会に対する影響などが非常にコンパクトにまとめてある。twitter に対するものの見方に変に曲がったり穿ったりしたところがないのも魅力である。

ただ、すでに twitter にのめりこんでしまっている人間にとっては新鮮さはどこにもない。全部知っていることだし、意識していることだし、理解できることである。もちろん、それをきれいに整理してあるという意味では非常に重宝な書物ではあるが、読んでいて驚きがないのも確かではある。

一方で「twitter って何?」とか「面白そうならやってみようかと思うんだけど」などと言っている人にとってはこれは打ってつけの入門書である。

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Thursday, November 26, 2009

『学問』山田詠美(書評)

【11月26日特記】 読み始めてすぐに「やっぱり山田詠美は巧いなあ」と思う。

4つの章が5人の登場人物の内4人の死亡記事で始まるという構成もそうだが、文章そのものが巧い。だから、(小説としてはそうあって当然なのだが)何にも突っかかることなくスラスラと読み進める。

主人公の仁美は東京から静岡県美流間市に引っ越してきたその日に、小学校の同級生である心太(テンちゃん)と会う。心太はいきなり「おまえはヒトミっていうよりフトミだな。でぶってほどじゃあないけど、太い」と言う。

如何にも小学生が言いそうな、悪気はないけどある意味残酷な台詞である。この、いきなり失礼なあだ名をつけておきながらちっとも憎たらしい感じがしないところが、後にストーリーの芯となってくるテンちゃんの、子供でありながら不思議に身につけているカリスマ性を強く表現している。

果たして、仁美はその日からフトミになり、その日からテンちゃんに強く惹かれるのを感じる。そして他に2人の同級生──寝てばかりの千穂(チーホ)と食ってばかりの無量(ムリョ)の4人でつるんで遊ぶようになる。

この4人に、後にムリョと結婚することになる素子が加わるのだが、彼女は決してこの4人とつるもうとはしない。この設定によって、この4人の特殊な結束力が浮き彫りになってくる。「やっぱり山田詠美は巧いなあ」と思う。

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Monday, November 16, 2009

『お前はただの現在にすぎない』萩元晴彦・村木良彦・今野勉(書評)

【11月16日特記】 昨年40年ぶりに復刊した名著である。いや、名著であると言うよりも怪物のような著述である。特にテレビの世界に身を置く者にとっては──。

今僕はこの本を読んで俄かに何かまとまりのあることをここに記すことは到底できそうにない。できるのはせいぜいこの本からいくつかの断片を抜き書きするくらいのことである。

「お前はエネルギーを持っているや否や。お前は柔軟や否や。お前は創造的であるや否や」(38頁)

「送り手・受け手という関係ではなく対等の人間としての関係の中で真の対話・連帯をどうつくり出せるのか、困難なことですが不言実行のくりかえしをしたいと思っています」(194頁)

「ソルボンヌの学生が、“所有のためにではなく、存在のための変革を”と叫ぶと同時に、“シジュフォス”と書きつけざるをえなかったのは、いわば、自らの行為の中の、決して完結することのない徒労を見ぬいていたからであろうが、われわれは、未だ、それに該当する言葉をもたなかった」(244-245頁)

「<テレビジョンとは何か>という問いは、普遍的な答え、テレビとは○○だということを要求するのではなく、その普遍を求めて、個がどう迫るかという問題です」(398-399頁)

「TVの最大の武器『即時性』を活かした『生』番組でも、『ゴージャス』でなければいけないと思います」(446頁)

「ぼくらは、テレビが<時間>であることを知っている。テレビが<時間>であることのさまざまな意味を知っている」(447頁)

「ひとつの問い、ひとつの答え、それにすべてを仮託するつもりはない」(489頁)

「もし、『テレビ』がぼくらの前に立って、『降伏せよ、哀れな夢想者。おまえが長いあいだ待っていたテレビジョン、おまえの<未来>であるこのわしがやってきたのだ』と叫ぶなら、ぼくらもまたトロツキーのように叫び返さねばなるまい。『お前は未だテレビならず。お前はただ現在そのようにあるだけだ』と」(491頁)

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Thursday, October 15, 2009

『宵山万華鏡』森見登美彦(書評)

【10月15日特記】 森見登美彦のデビュー作『太陽の塔』を読んだ時に、「この作家は早晩消えるだろう。いや、そもそも第2作が書けないんじゃないか」と思った。

それはロザンという漫才コンビが出てきた時にも思ったことなのだが、「京都大学」というワン・コンセプトでは後が続かないだろう、ということだった(もっともロザンの2人のうち京大卒なのは宇治原だけで、菅のほうは大阪府立大中退だが・・・)。

結局、ロザンはしぶとく生き残り、森見のほうも次作『四畳半神話体系』が出た時には「やっぱり」と思って僕は読まなかったのだが、その後も彼は書き続け、ついに『夜は短し歩けよ乙女』(これは久しぶりに読んだ)で花開いた感がある。

その作品で森見は従来の京大生を戯画化しながら京都と青春を描くというところから、少し幻想的な世界に踏み出して見せたのである。

その時には「ああ、こんな森見もいるのか」と思った程度だったのだが、この『宵山万華鏡』に及んで彼が完全に幻想譚の手法をものにしているのに驚き、そしてひょっとするとこれが彼が究極的に書きたかった世界なのかもしれないという気がしてきた。

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Monday, October 05, 2009

『元素生活』寄藤文平(書評)

【10月5日特記】 地球上に100種類以上存在する元素というものを、ひとつひとつ擬人化したイラストで説明しようという野心的(笑)な試みである。あるいは野次馬的な分析と呼んでも良いかもしれない。いずれにしても、よくまあそんなことをやろうと考えたもんだというとんでもない企画である。

ハロゲンだとかアルカリ金属だとか、放射性があるとか磁力があるとか、字や言葉だけで説明されると頭が痛くなりそうなことを、この人はすべての元素を人物になぞらえることによって、言わば漫画にしてしまったわけだ。

ただ、原子量が大きいほど太っているとか、発見された年代が古いほどひげが長く眉毛が濃くなるとか、固体は2本足で立ち液体は下半身が床に溶けだし気体は幽霊みたいに宙に浮いているとか、そこら辺までは解りやすいのだが、なんで窒素族がモヒカン刈りで酸素族は部分禿げで希ガスはアフロヘアーなのかとなってくると些か無理がある。

しかし、無理があるよなあと笑いながら読み進んでいると、なんとなく「こいつら確かにみんなこんな顔かたちや恰好をしてるんじゃないかな」という気がしてくるから不思議だ。いつの間にか妙な愛着が湧いてくるのである。

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Tuesday, September 29, 2009

『わたしは、なぜタダで70日間世界一周できたのか?』伊藤春香(書評)

【9月29日特記】 「なんか、とても悔しい。そう、羨ましいんじゃなくて悔しい。この感じ、読んだ人なら解ってくれると思う」──この本を読んでそう言った人がいたけど、まさにそういう感じ。

この本は、当時女子大生だった“はあちゅう”こと伊藤春香が、自らプロモートして獲得したスポンサーからのタイアップによってタダで世界一周をした記録である。

意地悪く書けば、生意気盛りの小娘が大人を籠絡して好き放題の遊びに興じるストーリーであり、そういう意味では読者が反感を抱いても何の不思議もないのだが、残念ながら(?)反感は抱けない。反感を抱けるのはせいぜい最初の20~30ページだ。

はあちゅうのパーソナリティによる部分も大きい。彼女は決して我が強く思い込みの激しい、ありがちな小娘ではない。むしろ自分の臆病な面をしっかりと描いているし、読んでいると意外に古風な面があるのも判る。だが、一方で目的に向かっては揺らぐことなくまっしぐらに突き進んで行く。

この不思議な強さは一体何なんだろうと思う。

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Thursday, September 17, 2009

『IN』桐野夏生(書評)

【9月17日特記】 読み始めてすぐに、あ、これは壇一雄だ、と思った。自然主義文学ではなく無頼派の作家を思い浮かべたのである。

作家の緑川未来男は妻と3人の子供がありながら、妻の千代子とは違って所帯染みず都会的な雰囲気のある○子との浮気を続け、2回も堕胎させている。千代子には隠し通すつもりでいたのだが、日記を盗み読みされて全てばれてしまい、そこからが修羅場になる。

それでも未来男は○子と別れるつもりはなく、さりとて千代子と別れて○子と所帯を構えるつもりもさらさらなく、あくまで都合の良い今の関係を続けようとする──。

そこには身勝手な男の心情が見事に描かれていて、女性の作家でよくここまで書き込めたものだと驚いた。だが、これはこの小説のメイン・ストーリーではなく作中作の小説『無垢人』なのである。

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Saturday, September 05, 2009

『「空気」と「世間」』鴻上尚史 (書評)

【9月5日特記】 実は鴻上さんとはかつて仕事上で浅からぬご縁があり、そういうきっかけもあって芝居も何度か拝見しているが、考えてみたら今まで物書き(脚本家は別)としての鴻上さんを意識したことはなかった。

それで、そういう流れから本屋で手に取ってみた訳だが、数行読んだだけでこれはなかなかのもんだ、と膝を打って即レジに並ぶことになった。

所謂「KY」が嫌われる時代である。しかし、「空気読めないのか!?」と咎められても、その空気がなんだか解っていればそれはそこそこ読めるはずで、それが解らないから読めないのである。その辺の仕組みをこの本は巧く解明している。曰く、「世間」が流動化したものが「空気」である、と。

土台となっている分析は鴻上さんのオリジナルではない。阿部謹也、山本七平、冷泉彰彦など多くの研究者/文筆家からの引用がある。しかし、これは「受け売り」というレベルに留まってはいない。鴻上さんによって充分消化された上で発展的に引かれている。

むしろ鴻上さんの目の付けどころの面白さと深い考察によって非常に説得力のあるものになっていると思う。

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Wednesday, August 26, 2009

『「坊っちゃん」の時代』関川夏央・谷口ジロー(書評)

【8月26日特記】 手塚治虫賞を獲ったほどの作品だから僕なんぞがとやかく言うこともないのだが、この作品が優れているのは夏目漱石の鬱屈を正しく描いているからだと思う。

漱石は英国留学中に、英国社会に対する嫌悪感と日本へのホームシックから強迫神経症を病んだ、と一般には言われているし、この本にも凡そそんなことが書かれている。

だが、漱石の鬱屈がそれほど簡単に図式的に解いて片づけられるようなものではなく、そこにはその時代特有の、その頃の日本や日本人特有のいろんなことが絡んでいるのだということを、この本は正しく描き出して見せてくれているのである。

多くの文献に当たって考証されたようであるが、作者自身が明らかにしているように、必ずしもここに書いてある全てが真実という訳でもなさそうだ。しかし、それにしても、漱石の同時代及び周辺にはこれだけ有名かつ傑出した人物が集い、ともに語っていたのかと思うと驚きを禁じ得ない。

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