『日本語が亡びるとき』水村美苗(書評)
【12月27日特記】 日本語ブームに乗ってその延長上でもうちょっと高尚な本でも読んでみるか──そんな調子でこの本を手に取った人は苦い思いをするだろう。これはそういう本ではない。読者に向けてのエンタテインメントの要素はどこにもない。
冒頭で謎を投げかけておいてそれを小出しに解いて行くとか、とりあえず何かキャッチーなフレーズでガサッと読者の心を鷲掴みにしてから書き進めるとか、著者にそんな気はさらさらないのである。唯一惹句と言えるのは「日本語が亡びる」というそのタイトルくらいのものである。
だから、最初は読んでいてもちっとも面白くない。著者は読者にサービスする気などなく、独自の日本語論を展開するに先だって必要となる前提を、帰国子女として、あるいは作家としての自己の経験から書き起こして、丁寧に丁寧に洗って行く。
この本の土台となる部分であるから、きわめて丁寧に、必然的にゆっくりゆっくり前提や背景や事実関係が洗い出される。言葉というものに強い興味を抱いている読者なら別に退屈で読めないようなことはないだろう。だが、それほど発見も驚きもないことが長々と書いてある。
だから、読むのを投げだすほどではないが、かといって面白くもないのである。もしもそれが言葉自体にはそれほど興味のない読者であったなら多分早くも二章で読むのをやめるだろう。
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