Friday, December 22, 2006

『strawberry shortcakes』魚喃キリコ(書評)

【12月22日特記】 痛々しい話。

読む人によって、今までにここまで痛々しい思いをしたことがない人だったり、あるいは逆にもっともっと痛々しい思いをしてきた人だったりするだろう。だけど、これはどんな人が読んでもリアルに感じられる痛々しさだ。

それはその痛々しさが激しいか穏やかかということに拠るのではなくて、生きるということに対して本質的な痛みが描かれているからなのではないかと思う。人生に本質的な痛々しさ──。

帯の宣伝文句にある「等身大のガールズストーリー」というのもちょっと違うような気がする。でなければ、僕のような中年男にこれだけの感慨を持たせるはずがない。

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Wednesday, December 20, 2006

『ウェブ進化論』梅田望夫(書評)

【12月20日特記】 これはなかなかの良書である。ただし、「インターネットのことを全然知らないからこれでも読んで勉強するか」という人には少しハードルが高いだろう。

日頃ネットに接していればいるほど、ここに書いてあることに実感として共鳴できるのではないだろうか。

この何年かで僕が痛切に感じていることは検索技術の進化がウェブの世界を激変させたということ。著者はこのことを充分認識した上で、さらに大きな要素をいくつか加えて、ウェブの世界の過去・現在・未来を解き明かしている。

序章で述べられている、1990年代半ばから現在に至る「三大潮流」は、1)インターネット、2)チープ革命、3)オープンソース、である。そして、第4章では「総表現社会=チープ革命×検索エンジン×自動秩序形成システム」という方程式で今後の社会を総括しようとしている。

これだけを読んでも多分何のことか解らないだろう。でも実際に読んでみればかなり納得できるはずだ。普段ネットに接していればいるほど、その納得は深いものになるのではないかと思う。

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Thursday, December 14, 2006

『荻窪ルースター物語』佐藤ヒロオ(書評)

【12月14日特記】 この店には何度も行っている。会社の後輩がメンバーの1人として出演すると言うので「'70年代歌謡曲の夕べ」を聴きに行ったのである。それですっかりハマってしまってその後何度も足を運んだ。ただし、このバンドのこの演目の時にしか行ったことがない。

そういう意味では僕は、この本の著者でありこの店のマスターである佐藤さんが期待する客には育っていないということだ。育たないまま転勤で東京を後にしてしまった。それを思うと佐藤さんに申し訳ないような気がする。

変なマスターである、佐藤さんは。「私が当店の総支配人アントニオ・ロマーリオです。気軽に佐藤さんとお呼びください」と佐藤さんは言う。

開演前、及び第1部と2部のインターバルに自ら舞台に上がり、珍妙なアナウンスやマジック・ショー(いずれも毎回ほぼ同じですが)を繰り広げる。それを笑いながら見ているとただの面白いおじさんのように思ってしまう。

だが、この本を読むと、この人が如何に堅固な思想性を持ち、如何に純粋な信念に基づいてお店を運営しているかが初めて解る。

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Sunday, December 03, 2006

『翻訳教室』柴田元幸(書評)

【12月3日特記】 東大文学部教授である柴田元幸の授業を文字に起こしたものである。はあ、東大ではこんな講義をしているのか。言い様もなく素晴らしい翻訳演習である。読んでいると羨ましいのを通り越して何か甘美な夢でも見ているのではないかという気さえしてくる。

本来翻訳というものは、このくらい英語と日本語の両方に通じている人にしかできない作業なのである。

英語の読み書きができるというだけでは勿論ダメで、日本語の特性をも深く理解している必要がある。英単語のニュアンスと用法を熟知して、その意味をできる限り正確に反映できる、こなれた日本語の表現に転化して行かなければならない。そして、言葉の背後にある文化や宗教、時代背景にも気を配れないと、総体としての“意味”は伝えられない。

──それが柴田教授が教えようとしていることなのではないだろうか。

にも拘らず、世の中には単に英語ができるというだけで、いや日本語も英語もろくにできないくせに、機械的に単語を置き換えて「翻訳」と称している(特に専門書まわりの)似非翻訳家が五万といる。

僕はこの本を読んでいると、自分にそんな翻訳能力があるわけでもないのに、世の翻訳家を片っ端から捕まえて、「おい、お前はこんなことまで考えて訳していたか?」「こういうことまで考えて単語を選んでいたか?」と順番に頭をはたいて回りたくなる。

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Tuesday, October 31, 2006

『世界の日本人ジョーク集』早坂隆(書評)

【10月31日特記】 こういう本を読むのは僕ぐらいのもんだろうと、ちょっと得意になって注文したのだが、聞けばベストセラーのトップ10に入っていると言う。それを知って些かがっかりしたのも確か(すみませんねえ、ヘソマガリで)。

でも、基本的にこういうのは大好きである。所謂エスニック・ジョーク。差別スレスレのところで笑い飛ばすという指向性に惹かれるのである。

ところがせっかく世界中から面白いジョークを集めてきていながら、本全体としての印象はそれほど面白くない。

掲載されているたくさんのジョークと比べて、「地の文」と言うか解説の部分に面白味がないのである。いや、別に文章が下手だという訳ではない。ただ、あまりに普通、つまり別に面白くもない解説なのである。そこが物足りない。

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Wednesday, October 25, 2006

『脳はなにかと言い訳する』池谷裕二(書評)

【10月25日特記】 4年前に読んだ『海馬 脳は疲れない』(糸井重里と池谷裕二の共著)が面白かったのと、母が最近になって認知症の初期と診断されたことの2つが直接の動機となって、またこの著者の本を手に取った。そして、期待に違わず、読みやすく面白くためになる、三拍子揃った読み物だった。

「読みやすく」「面白く」はともかくとして、「ためになる」というのは単に医学的な知識が身につくという意味ではない。

確かに医学的な知識も多少はつくだろうけれど、たかが本1冊で身につくものは知れているし、一般人が脳に関する医学知識を身につけてどうする?という面もある。

そんなことよりもためになる(そして面白い)のは、筆者が時折“気の持ちよう”みたいな側面に触れてくるところだ。僕は何だか筆者が医学知識を隠れ蓑にしてこっそり人生訓を説いているような気がして、そこになんだか好感を覚えてしまったのである。

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Tuesday, October 17, 2006

『ティンブクトゥ』ポール・オースター(書評)

【10月17日特記】 オースターの小説はほとんど全部読んでいるが、これはいつものオースターとちょっと違う感じ。なんだか平べったい印象がある。練りこんだ跡が目に見えない。いつものように読み終わって暫し「うーむ」と唸るようなこともなかった(だが読後感は少し爽快である)。

短い小説だし、単純な設定だから仕方がないのかもしれない。話者は犬である。名前はミスター・ボーンズ。そして、最初の主人の名がウィリー。

ウィリーは放浪の詩人、と言えば聞こえが良いが、悪く言えば定職にも就かず金にもならない詩を書いてばかりのイカレた中年男である。一応帰るべき家はあってそこに母親が住んでいるが、1年のほとんどをミスター・ボーンズとホームレスさながらの旅をしている。

ミスター・ボーンズは犬であるからもちろん人間の言葉は話せないが、聞くほうでは人間の言葉をほぼ完璧に理解する。ウィリーはそのボーンズの能力を知ってか知らずか頻りにボーンズに話しかける。犬に人生を説いたりする。

もっともミスター・ボーンズは人間ほどいろいろな知識があるわけではないので、時として意味の分からない単語に遭遇したり早合点したりもする。

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Friday, October 06, 2006

『イノセント』ハーラン・コーベン(書評)

【10月6日特記】 (上下巻通じての書評です)日本で発売されているコーベンの本は全て読んできたが、実は僕なんかにはミステリを語る資格がないのだろうと思う。犯人探しやトリックの解明に興味がないのである。ミステリを手に取っているときも、もっぱら別のことに魅かれて読んでいる。

もちろん、ミステリがミステリである所以と言える「事件」や「推理」も楽しんで読んでいるのであるが、その部分での良し悪しはよく解らない。この程度に面白ければそれで良い。他の小説と並べてどちらがミステリとして上かと訊かれてもよく分からない。読んでいる途中で犯人は誰だろうとか真実は何だろうかとか考えたりもしない。

ここまで筋が入り組んでくると、謎解き・種明かしに入った部分を読んでいて頭が混乱してくるので、むしろもう少し単純な筋のほうが良いのにと思ったりもする。この複雑な設定がミステリとしてどうかと問われてもやっぱり答えられない。よくもまあこんなややこしい話を考えたものだと感心するのみである。

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『ロングテール』クリス・アンダーソン(書評)

【10月6日特記】 仕事のために読んだ本なのだが大変面白かった。そういう本に出会えるのって実はとても貴重な体験であり、嬉しい誤算である。

とかくビジネス書というものは見掛け倒しで中身の薄いものであることが多い。たいていは個人的な成功体験や単なる思いつきに支えられた(あるいは、がんじがらめになった)狭量かつ牽強付会なものであったりする。

それに対してこの本は、ロングテール理論の提唱者である(統計学の理論からロングテールという用語を持ってきてマーケティング理論に移植した)クリス・アンダーソン氏自らが著者であることが第1のセールス・ポイント。そして彼が長年ワイアード誌の編集長として若者文化に触れてきたという経験と感覚を十全に活かしているということが第2のセールス・ポイント。さらに、決して片手間に書かれたものではなく、何冊もの専門書を読んで勉強し、時間と手間をかけて資料を集め、綿密に検証した上で構築された理論であるところが第3のセールス・ポイントとなっている。

だから非常に説得力がある。そして面白い。

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Thursday, September 14, 2006

『日本語の歴史』山口仲美(書評)

【9月14日特記】 以前他の書評に書いたのだが、本の中味を読む前に目次を読んでおくと随分理解の助けになる。そのために目次はいつも冒頭に配されているのである。一方、巻末にある「あとがき」は、大抵は本を読み終わってから読むべきものであって、場合によっては先に読まないほうが良いことさえある。ところが、この本の中味は著者自身の「あとがき」に非常に簡潔にまとめられているので先にこれを紹介しておこう。

この本は日本語の歴史を振り返って「奈良時代は文字を中心に、平安時代は文章を中心に、鎌倉・室町時代は文法を中心に、江戸時代は音韻と語彙を中心に、明治以降は、話し言葉と書き言葉という問題を中心に」「できる限り現象の起こった原因にまで思いを及ぼして」書かれたものである。

日本語ブームに乗っかって安易に書き散らされたものは読みたくない、かといって専門書に手を出すほどの気力も能力もない、でも日本語にとても興味がある──そういう人に打ってつけの本である。学者が書いた文章であるにも拘らず高卒程度の古典の知識があれば充分理解できる内容になっている。

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