Thursday, December 30, 2004

『言葉の常備薬』呉智英(書評)

【12月30日特記】

【まえがき】でいきなり産経新聞の校閲部長を槍玉に挙げている。その書きっぷりが結構激しいので、おいおいそんなに怒って書いたんじゃ面白さが半減するよと思っていたら本編に入って落ち着いてきた。

この人はちゃんと言葉の不思議を理解しているのである。だから何でもかんでも罵倒しようという姿勢ではない。「俗語をとがめてもしかたがない」と書いている。「言葉には雅俗の別があり、使う人、使う場合に応じて、それぞれに使い分ければいいのだ」と鷹揚である。

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Friday, December 24, 2004

『翻訳文学ブックカフェ』新元良一(書評)

【12月24日特記】 帯にあるように、ひと言で言えば「とびっきりの名翻訳家11人へのインタビュー集」である。インタビュアーの新元という人が何者なのか僕は知らないし(有名な人なのだろうか?)本の中にも記述がないのだが、英米文学に精通しており、インタビューされるそれぞれの翻訳家から肩肘を張らない良い話を引き出している。小川高義氏の「ラヒリは俺の女だ!」発言など、ニヤリと笑えるエピソードも多い。

ここで登場する11人のうち半分ぐらいは知らない人だなあと思って読み始めたのだが、実際読んでみると今まで全く接点がなかった(訳文を読んだことがなかった)のは鴻巣友季子、青山南、土屋政雄の3氏だけだった。我々は却々訳者の名前までは覚えていないものだ。

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Monday, December 13, 2004

『その名にちなんで』ジュンパ・ラヒリ(書評)

【12月13日特記】 「丹精込めた」とか「肌理細やかな」といった表現が浮かんでくる。ということは、これを読んでも面白いと思わない読者もきっといるんだ──それを思うとちょっと悲しくなる。

そう、これは「泣ける小説」でもなければ「手に汗握る物語」でもない。小説を読む愉しみは、決して泣いたり笑ったりハラハラドキドキしたりするだけではない、ということをしっかりと教えてくれる上質の作品である。

ラヒリのデビュー作『停電の夜に』も良かった。が、そもそも僕は読んだ本の内容をすぐに忘れてしまうし、また短編ゆえの軽さということもあって、実はあまり憶えていない。ただ、良かったという印象だけ残っていて、それでこの本を買ったのである。

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Friday, November 26, 2004

『直観でわかる数学』畑村洋太郎(書評)

【11月26日特記】 一番意地の悪い言い方をすれば、これは単に著者にとっての「直観でわかる数学」でしかない。

もっと虚心坦懐に言えば、どのように説明すれば直観で理解できるかは人によってさまざまで、「はい、これで全員直観でわかっただろう」と言われても困るのである。

などと書くと「そんなひどい本なのか」と思われるだろうが、いやいや、決してひどい本ではない。僕自身「ふんふん、なるほど」と納得したり「なるほど、うまい説明の仕方だ」と感心しながら読んだ章もある。ただし、「それがどうした?」とか「うーん、そうかなあ?」と思った部分もある。

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『若かった日々』レベッカ・ブラウン(書評)

【11月26日特記】 きっと眼がいいんだね。いや、耳もいい。それに鼻も、舌も、皮膚感覚も。

レベッカ・ブラウンという人は僕たちが見過ごしたり、聞き逃したり、肌で感じられないまま通り過ごしてきた多くのことをしっかり感じ取って来た人だ。でも、ただ感じ取って来ただけではなくて、頭の中にそれをしまっておく居心地の良いスペースがあるんだ。いや、それだけでもない。彼女は「若かった日々」の記憶をそのまま紙に書き写して小説を完成したのではないだろう。

それは単純な記憶ではなく、熟成された記憶である。必ずしも彼女の実体験ではないかもしれない。それは実体験から拡充された、芳醇で繊細な記憶である。きわめて個人的なくせに妙に一般的な記憶なのである。

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Tuesday, November 16, 2004

『これが東大の授業ですか。』佐藤良明(書評)

【11月16日特記】 これはエキサイティングな読み物だ。特に英語が好きな人、英語教育に興味のある人にとってはかなり面白い。読んでいると、「ああ、こんな授業を受けたかった」という生徒の気持ちになるよりも、昔英語塾で教えていたときに僕にも少なからずあった情熱が沸々と甦って来る感のほうが強かった。

ひと言で言うと東大英語カリキュラム改革運動記。『これが東大の授業ですか。』というタイトルも多義的で良い。「へえ、これが東大の授業ですか、はあ、さすがですね」から「おいおい、こんなもんが東大の授業かい!?」までかなり幅広い含みがある。「これ」を改革前と読むか改革後と読むか、あるいは著者が改革運動を去った後と読むかで意味合いは変わってくる。

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Monday, November 01, 2004

『イマジン』清水義範(書評)

【11月1日特記】 これはあまり出来の良い類の小説ではない。

タイムスリップする話なのだが、時代考証面での甘さもある(なにせ『ららら科学の子』を読んだばかりなので粗が目立ってしまう)。登場人物の台詞で状況を説明しようとする悪癖も見られる。ご都合主義的な展開もある。あまりにすんなり運びすぎる恨みもある。結末がどうなるのか容易に想像がついてしまう。

にもかかわらず救いがあるのは、これを読めば明るくなれるからだ。

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Sunday, October 24, 2004

『ガラテイア2.2』リチャード・パワーズ(書評)

【10月24日特記】 読み終えてすぐにまた一から読み直したくなった。これほど読むのに難渋したはずなのに、何故?

これは『舞踏会に向かう三人の農夫』に次ぐパワーズの邦訳第2弾である。あの本も読むのがずいぶんしんどかった。あまりに入り組みすぎていて、しかも難解だった。そして、この『ガラテイア2.2』もまた話が交錯する。

しかし、交錯すると言っても、この本では話はたった2つだ。主人公の作家リチャード・パワーズがコンピュータに言語を教えようとする話と、回想として挿入される、Cという女性とパワーズとの恋と破綻の物語。

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Wednesday, October 06, 2004

『歌い屋たち』なぎら健壱(書評)

【10月6日特記】 フォーク世代集まれ!

これは紛れもなくフォーク世代の本である。まかり間違ってもニュー・ミュージック世代のための本ではない。

読み始めてすぐに気になるのが、ブツ切れの文体。文章と文章が繋がっていない気がする。多分これは意図して書いたものではなく、こんな文章しか書けなかったのだ、と何の根拠もなく思ってしまう。プロの小説家ではなく所詮「歌い屋」が書いたものだから、という先入観だろうか?

しかし、そういう文章であるがゆえに非常に乾いた感じがして、これはこれで味がある。読み進むうちに気にならなくなるのだ。

しかし、それにしても、小説の途中で30年前に時代を遡ってからの展開がやけに遅い。そして、30年前の回想になる直前のシーンとやっとリンクしたかと思うと、あっという間に、かなり尻切れトンボ的に終わってしまうのである。

いや、テーマとしては一応完結しているのである。ただ、そのワン・テーマで小説書かれてもなあ、と言うか、もっと複雑なドロドロが一杯あって、それを必死で潜り抜けたところにこの簡潔なテーマがあったと言うのであればもっと納得できるのに、あまりにすんなり完結してしまっているところに小説としては恨みが残るのである。

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Thursday, September 30, 2004

『ドリーマーズ』ギルバート・アデア(書評)

【9月30日特記】 1930年代から1968年までの映画について造詣が深くなければ、十全にこの作品を楽しむことは無理なのかもしれない。しかし、少なくとも若い世代特有のマニア的な熱狂については理解できるし、それさえ理解できれば読めない本ではない。

フランスの5月革命を背景にしているので、この辺の事情もできれば事前に知っておいたほうが良いだろう。映画に熱中し、と言うか没頭してしまった双子の兄妹とその友人の少年。いずれもアンリ・ラングロワが事務局長を務めるシネマテーク・フランセーズの常連である。そのラングロワが政府の圧力で解任され、それに抗議する動きが5月革命と呼応する。

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