Thursday, December 11, 2003

『エトロフの恋』島田雅彦(書評)

【12月11日特記】 ほとんどあらすじだけで成り立っていた前作『美しい魂』と比べて、こちらは最初のページからしっかりとした小説空間が構築されている。うだうだ書き綴った今作よりも無骨にあらすじだけの前作のほうが好きだと言うのは勝手だが、小説としての良し悪しについて言えば比較するまでもない。この作品を読んで改めて前作の不出来を思い知らされた感じさえする。

エトロフという舞台の設定。自然に対する観察眼。聖霊や幻想といった超自然、そして人物の配し方・捉え方。──いずれをとっても前作には見られなかったものであり、それらがこの作品の色濃い深みをもたらしている。

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Wednesday, December 03, 2003

『美しい魂』島田雅彦(書評)

【12月3日特記】 前作「彗星の住人」を読んでしまったので行きがかり上、続編の2作を買った。ところが、「彗星の住人」については「フィクションに歴史をうまく絡めてそこそこ面白かったな」という記憶はあるのだが、例によって登場人物やストーリーについては皆目憶えていないのである。

仕方がないので「あとがき」か「解説」だけでも読み直してから続編を読み始めようかと思ったのだが、残念ながらいずれもついていなかった。

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Sunday, November 30, 2003

『飛蝗の農場』ジェレミー・ドロンフィールド(書評)

【11月30日特記】 2002年度の「このミステリーがすごい!」(海外編)の第1位なのだそうである。出張で移動する車内の慰みに買い求めたのであるが、まさにそういう読み方にうってつけの本ではないだろうか。手が込んでいて飽きない。

章が改まる度に違う町における違う登場人物の話になっていたりして、最初は大いに戸惑うのだが、これもすぐに想像がつく。最後の謎解きに部分にさしかかって、「なんだ、結局またそういうことかい!?」「しかも、まだ100ページちょうども余して、もう種明しするのか!?」と思うのだが、「ああ、良かった。続きがあった」という感じ。そして、そこから結構粘ってくれる。

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Monday, November 17, 2003

『光ってみえるもの、あれは』川上弘美(書評)

【11月17日特記】 知らない言葉ではないが自分では一度も使ったことがない表現がそこかしこに出てくる。やっぱりこの人の筆運びには感心する。そして、何よりも日本語がよく刈り込まれている。植木屋が入った後の庭みたいなもんだ。

各章に一篇ずつ、いろんな人の詩が織り込まれている。今どき詩なんて時代遅れに決まってる。そんな時代にこんな素敵な詩を並べてみるなんて、粋だと思う。

結局のところ川上弘美には世俗的な人物を描くことができないのではないか、という気も少しするのだが、この小説に出てくるのはちょいと浮世離れした、いささか変な人たちばかりだ。変な親子関係、変な家族。別れても続く変な夫婦。つかみどころのない生物学上の父。女装する高校生。ちょっとずれた高校教師・・・。

そもそも今の日本には変な人が少なすぎる。世の中、こんな変な人ばっかりだったら暮らしやすいだろうにな、と思う。いや、しかし、変でない人たちもこの小説を読んでみようと思うのだろうか? そして、読んだら面白かったと思うのだろうか? もし面白かったと思うのであれば、世の中まだ捨てたもんじゃないと思う。

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Monday, November 10, 2003

『まひるの月を追いかけて』恩田陸(書評)

【11月10日特記】 かの有名なさとなお氏には「おもしろかったのだが、これが代表作?という感じは残る」と書かれてしまったが、僕は恩田陸の作品の中ではやっぱり『黒と茶の幻想』が一番好きなのである(さとなお氏にメールを送って『黒と茶の幻想』を薦めたのは他ならぬ僕である)。

で、この『まひるの月を追いかけて』も、どちらかと言うと『黒と茶の幻想』の線なのである。もっとも、こちらのほうがもう少しはっきりとミステリ仕立てである。つまり、謎があってそれが解けるという形を採っている。

結末についてはあまり多くを語らないほうが良いだろう。不用意に僕がヒントを与えてしまうと、勘の良い読者ならすぐに結末を読み切ってしまう恐れがある。ただ一言で書いてしまうと、この結末は僕にとっては、やや茶番。

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Wednesday, November 05, 2003

『シカゴ育ち』スチュアート・ダイベック(書評)

【11月5日特記】 シカゴの情景とか、登場する人物の造形とか設定とか、ゆっくりと展開されるストーリーであるとか、そういう個別の要素に分解していては到底語れないような魅力が、この短編集にはある。

そして、息を呑むような、溜息をつきそうになるほど素敵な描写がそこかしこに出てくる。もし、どうしても要素に分解してこの小説の魅力を語るとすれば、それは卓越した描写、研ぎ澄まされた表現にある。

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Saturday, October 18, 2003

『博士の愛した数式』小川洋子(書評)

【10月18日特記】 『村上春樹と柴田元幸のもうひとつのアメリカ』に収められた三浦雅士と柴田元幸の対談でスチュアート・ダイベックと小川洋子を知った。

「柴田元幸が褒めるのであれば間違いはあるまい」と思って各々1冊ずつを注文したのだが、『博士の愛した数式』のほうは bk1 では在庫切れ──それだけ売れているということであろうが、他の書店では平積みになっている本が在庫切れとは、bk1 も情けない(ということで、他店で買っちゃいました)。

記憶が80分しかもたない老数学者と、そこに通う家政婦、家政婦の息子である野球好きの10歳の少年の3人の心の交流を描いた物語である。数学と野球が見事に物語りに組み入れられている。

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Monday, October 13, 2003

『裏声で歌へ君が代』丸谷才一(書評)

【10月13日特記】 『輝く日の宮』で初めて丸谷才一を読んで、それがあまりに面白かったので20年前のこの作品を読んでみたのだが、随分趣が違う。テーマが国家という重いものである点が一番大きな違いなのではあるが、語りが多くて人物が動かないところが、読んでいて一番しんどいところである。

「語り」と書いたのはト書のことではなく登場人物の台詞のことなのだが、作者がそれぞれの登場人物に語らせているのは言うまでもない。

巻末の解説で池澤夏樹が指摘してるように、「小説は矛盾を矛盾のままにうまく扱う思考の装置である。梨田の考え方と洪圭樹の考え方がくいちがう時、論文では両方の発展を追うことはできない。そういう場合に小説は(中略)弁証法を実現するすぐれたシステムである」。

──なるほど良くできた仕掛けである。

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Saturday, October 04, 2003

『小顔・小アゴ・プルプル唇』竹内久美子(書評)

【10月4日特記】 他人からもらって読んだ本である。週刊文春に連載されていたのだそうである。動物行動学なのだそうである。

面白くないかと言われれば、面白くないこともないが、所詮「まあ、これもひとつの解釈か」ってな感じでしかない。

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『約束の冬』宮本輝(書評)

【10月4日特記】 約10年ぶりに宮本輝を読んだ。自分のHPにも書いたのだが、要するに飽きてしまって読まなくなったのである。それでも、飽きるまでに随分彼の著作を読んだので、何と言うか、読む前から解っているのである──彼が筋回しの巧い作家であるということは。

で、読んだ。面白かった。

ただ、全体にべタッとしたところがやはり少し気に食わない──多分そういう面に嫌気が差して読まなくなったのかもしれない。

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