『エトロフの恋』島田雅彦(書評)
【12月11日特記】 ほとんどあらすじだけで成り立っていた前作『美しい魂』と比べて、こちらは最初のページからしっかりとした小説空間が構築されている。うだうだ書き綴った今作よりも無骨にあらすじだけの前作のほうが好きだと言うのは勝手だが、小説としての良し悪しについて言えば比較するまでもない。この作品を読んで改めて前作の不出来を思い知らされた感じさえする。
エトロフという舞台の設定。自然に対する観察眼。聖霊や幻想といった超自然、そして人物の配し方・捉え方。──いずれをとっても前作には見られなかったものであり、それらがこの作品の色濃い深みをもたらしている。
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