Saturday, December 21, 2002

『木曜組曲』恩田陸 

【12月21日特記】 いやはやまったく、恩田さん、あなたは本当に頭の良い方だ。よくまあこんなもの書きますね。全ての謎が解き明かされて話が終わったかと思いきや、そこからボールはまだ3バウンドくらい跳ね続ける。

他の恩田作品の書評にも書いたけれど、ひとつ間違うと「私はこんなに頭が良いんだ」と言わんばかりの嫌味な作品になりかねないところを、いつも通りスマートに切り抜けている。それはひとえにこの人の人物構築力の豊かさによるもので、単なる推理ゲームに陥らずあくまで人間を描くという作業に集中できているからではないかと思う。

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Wednesday, December 18, 2002

『ネットワークはなぜつながるのか』戸根勤(書評)

【12月18日特記】 日経BP社の「なぜ」シリーズもこんなに増えてくるとさすがに全部は読めない。前に読んだ『プログラムはなぜ動くのか』は非常に良かったが、だからと言ってこの本も良いとは限らない。なにせ著者は1冊ずつ全て異なるのだから…。

どれ、もう1冊だけ読んでおこうか、と取り寄せたのがこの本である。

で、結論から言うとこれまた大変解りやすい解説書だった。有り体に言うと、それはこの本が僕のレベルに合っていたということでしかないのかもしれないが…。

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Thursday, December 12, 2002

『だからアメリカは嫌われる』マーク・ハーツガード(書評)

【12月12日特記】 まず、読み始めてすぐに思ったのは邦題の不適切さである。

訳者があとがきで述べているように、9.11以降アメリカのマス・メディアは「なぜわれわれは嫌われるのか」という表現をたびたび使ってきた。訳者はこれを踏まえて邦題をつけたのだろう。しかし、原題は THE EAGLE'S SHADOW: Why America Fascinates and Infuriates the World である。メインタイトルの EAGLE はアメリカのことであるが、問題は副題のほうで、これは訳せば「なぜアメリカは世界を魅了し(同時に)世界を激怒させるのか」となる。

まさにこのタイトルの両面性こそがこの本のミソなのであって、決して著者はアメリカの醜い面だけを抉り出そうとしているのではない。彼本人がアメリカ人であり、アメリカを愛しアメリカを誇りに思っている姿がはっきりと見て取れる。彼自身が文中でも「誤解のないように」とそのことを明言している箇所がある。そして、そのことがあるからこそ、彼が指摘するアメリカの欠陥についての表現が生き生きとしてくるのである。

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Saturday, November 30, 2002

『マーティン・ドレスラーの夢』スティーヴン・ミルハウザー(書評)

【11月30日特記】 味わいの深い、良い小説だった。それは言葉を変えれば、僕自身にこの作品を味わう力があったということなのかも知れない。しかし、一方で僕自身にこの小説の魅力を伝える力がないのがもどかしい気がする。

これは「なんだか、すごい」小説なのである。僕にはその程度の形容しかできない。「なんだか」という表現のなかに、この小説の懐の深さを読み取ってもらうしかないのである。

最初は、「子供の頃から才能の片鱗を見せていた主人公が実業家として成功し、頂点に達する寸前に妻に足許を掬われて全てを失う」というようなストーリーではないかと想像しながら読み進んでいた。ところが、この作家はそんなありきたりなストーリーを書く気はなかった。

いや、そもそもこの小説の魅力は「ストーリー」の周辺にあるのではない。それは重ねられる描写の隙間に埋め込まれている。

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Sunday, November 17, 2002

『唇を閉ざせ』ハーラン・コーベン(書評)

【11月17日特記】 これはマイロン・ボライターを主人公とするシリーズから離れた所謂スタンダロン作品である。従って、ここではマイロンやエスペランサら一連の登場人物によるような減らず口のジョークは幾分控えられている。

しかし、人は急にその作風を変えようとしてもそう一気には変えられないもので、例のシリーズにあるようなユーモアのセンスは随所に生かされている。

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『アンダーワールド』ドン・デリーロ(書評)

【11月17日特記】 よくまあこんなものを書いたなあという感慨もさることながら、我ながらよくこんな本を読み通したなあという思いのほうが強かったりする。上下巻600ページずつ、合せて1,200ページ超の大著である。

しかもこの本、読み始めてからペースを掴むのにひどく時間がかかる。

登場人物が次々と入れ替わる。読み進めば進むほど新しい人物が登場してきて、誰が主人公なのか掴めない。どうやらニックという人物が主人公に近いのだが、あるときは「彼」あるときは「俺」という人称で語られている。おまけに時代が頻繁に前後して何が何だか判らない。

そして展開が極めて遅い。冒頭のシーンはプロ野球のシーンなのだが、往年のアニメ「巨人の星」を思い出してしまう。──星飛雄馬が振りかぶって足を上げる。一陣の砂埃が舞い上がる。目の中で炎が燃え上がる。漸く球が指を離れる。ボールがクルクル回転しながらホームベースに近づいてくる。はい、そこで今回は終わり。また来週てな感じ。それと並ぶくらい、この小説は細部に至って綿密な描写を重ねている。

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Sunday, October 13, 2002

『トム・ゴードンに恋した少女』スティーヴン・キング(書評)

【10月13日特記】 トリシア・マクファーランドという9歳の少女がメイン州の広大な森で何日間にもわたって遭難する話である。スズメバチに刺されたり谷から転げ落ちたり食物が尽きたりと次々と苦難が少女に襲い掛かる。

もっともっといろんな仕掛けがあっても良さそうなものだが意外に山場は少なく、また怖くもない。そういう意味ではこの小説はホラーではなく、ありきたりの冒険小説でもなく、言わば現代アメリカの家族とキリスト教とメジャーリーグの三題噺なのである。

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『王国 その1 アンドロメダ・ハイツ』よしもとばなな(書評)

【10月13日特記】 書こうとしていることはよく解る。しかし、それがひしひしと伝わってくるかどうかと言えば2つに分かれるのではないか。

特に僕のようなオジサンには少ししんどかった。それは必ずしも僕がオジサンだから、あるいは男だからスッと沁み込んでこないというものでもあるまい。一部の人たちの心には乾いた土地に水が染み込むように入り込んで行くのだろうということは容易に想像がつく。

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Saturday, October 05, 2002

『容疑者の夜行列車』多和田葉子(書評)

【10月5日特記】 13章からなる夜行列車の旅。長編というよりは言わば短編連作であるが、主人公はいずれも「あなた」(職業はダンサー)である。各章には主にヨーロッパの地名が振られているが、「どこどこにて」ではなく、例えば「イルクーツクへ」や「アムステルダムへ」であり、最後の章だけ「どこでもない町へ」となっている。

私はある書評で読んで最初から知っていたのだが、何故主人公は2人称であるのか、そして何故この旅は延々と続いて行くのかについての謎が終盤で解き明かされることになる。

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Sunday, September 29, 2002

『海辺のカフカ』村上春樹(書評)

【9月29日特記】 地下鉄サリン事件のルポルタージュである『アンダーグラウンド』、阪神大震災を織り込んだ短編集『神の子どもたちはみな踊る』を経て久しぶりに出た書き下ろし長編なので、妙に説教臭くなってないかと心配したのだが、その点については杞憂だった。

ただ、やはり村上春樹はそのスタンスを少しずつ動かしているような気はする。

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