映画『フロントライン』
この映画の情報に触れて最初に思ったのは、へえ、関根光才監督ってこんな映画撮るんだ!ということだった。
元々は広告映像の作家で、僕が最初に観たのは趣里の全裸以外はあまり評判にもならなかった『生きてるだけで、愛』で、その次が目も眩まんばかりに幻想的な IMAXショートフィルムの『TRANSPHERE』、そしてその次が認知症の父と娘を描いた『かくしごと』だった。
今回は硬派な社会ネタである。
僕は映画が事実に基づいているという宣伝文句には全く惹かれない。だが、コロナ禍もひとまず治まり、そろそろ誰かがあの時のことを描いても良い時期、いや、誰かが描いておくべき時期に来ているんだろうなと思っている。
それができるだけ事実に忠実であろうとして作られたものであろうが、概ね事実に基づいてはいるが映画として成立させるためにアレンジしたり、時には盛ったりしたものであろうが、あるいは当時の設定や状況だけを借りて新たに構築された完全なフィクションであろうが、そんなことはどうでも良い。
大切なのは、あのダイヤモンド・プリンセス号のような、誰も予期していなかった大惨事に直面すると、多くの人がまともでない判断をしてしまうのだということを描いておくことである。
問題なのは、その判断が結果として正しかったか間違っていたかということではない。まともな思考の経路を経てまともな判断ができていたかどうかということである。
そして、パニック状態では多くの人がまともでない判断をしてしまい、ごく少数のまともな判断ができた人たちも時として彼らに押し流されてしまうということである。
そういう意味で、この映画は本当によく描けていた。まともな判断とは何なのかということにまともに向き合って、まともに描ききっていた。
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