【9月27日 記】 映画『傲慢と善良』を観てきた。
原作の小説は 100万部突破のベストセラーらしいが、僕は辻村深月の小説は1作しか読んだことがない。
その時の書評には(ま、最後にはもうちょっと褒めているが、冒頭で)「我慢がならないくらい物足りない」と書いていて、僕にとっては所詮1作だけ読んでその後は二度と手に取らない作家である。
監督の萩原健太郎は、これまでに2本の映画を観ているが、こちらも僕としてはファンというわけではない。
今回の目当ては主演の奈緒と脚本の清水友佳子である。この2人がいれば、どんな原作であれきっと良い映画になっていると思って観に行った。
『傲慢と善良』というタイトルでオースティンの有名な小説『高慢と偏見』を想起する人も多いだろう。
いずれも女性の結婚を描いた作品らしいが、この映画の中では前田美波里が扮する結婚相談所の所長の台詞で、「『高慢と偏見』ってご存じ?」と最初に振ったあとに、今の若い人たちの結婚観を表すキーワードとして「傲慢と善良が同居している」という台詞がある。
これが実は作品テーマの解説になっている。却々分かりやすい作りではないか。
さて、冒頭のシーンは夜の交差点。信号が青になっても横断歩道を渡らない女がいる。顔は映らない。が、左手の薬指に大きなダイヤの指輪をしている。そして、持っていた白いバラの花束をその指で握りつぶして地面に捨ててしまう。
調べてみたら、白いバラの花言葉は「純潔」「相思相愛」「生涯を誓う」などである。すでにこの映画の設定はここで語られているのである。ちなみにこのシーンは終盤にもう一度出てくる。
婚活アプリでともにお見合いを重ねてきた西澤(藤ヶ谷太輔)と真実(奈緒)はすぐに惹かれ合う。奈緒は西澤のカッコよくてリッチでスマートなところに。西澤は真実のおっとりとして奥ゆかしいところに。友だちに真実のどこが好きかと訊かれた西澤は「善良」という言葉を使う。
西澤と真実が初めて会う喫茶店のテーブルの足がぐらついているところなど、ストーリーに必要ではないのだけれど、なんとも言えず微笑ましくもあり、しかし、いろいろ考えると何かを象徴しているようで意味深長に思えたり、いずれにしてもリアリティを高めるためのこういう細部の仕掛けが、僕は嬉しくてたまらない。
さて、そんな2人の交際は続くのだが、プロポーズを心待ちにする真実に対して、西澤にはその素振りはない。プロポーズの指輪かと思ったケースも、開けてみたら誕生日プレゼントのブローチだった。
そんな不安さが真実を恋の駆け引きに駆り立ててしまう。そういうことがあまりうまくできるタイプでもないのに…。
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