Friday, May 24, 2024

『黒い海』伊澤理江(書評)

【5月23日 記】 この本は多分 SlowNews の note で知ったのだと思う。そもそも SlowNews で連載していたようだが、その当時は知らなくて、本が発売されたタイミングで知った。

2008年に太平洋上で沈没し、17名の乗組員が亡くなった漁船・第58寿和丸に関するルポルタージュである。

特筆すべきは、これは子供の頃から船や漁業が好きだった少年が船舶評論家や海上交通ジャーナリストになって書き上げたというような書物ではなく、それまで船とも漁業とも全く接点のなかった女性が、たまたまこの事故のことを知って、そこから猛烈な熱意と根気をもって調べ上げた著作だということだ。

それほど荒れてもいない海で、安全な体勢で停泊していた漁船が、突然衝撃を受けて沈没し、真っ黒な油が大量に漏れて、一命をとりとめた人たちも油まみれになった。しかも、近海に同じ船団の船が何艘も停泊していたのに沈んだのはこの船だけである。

船や漁業の知識が全くなかった著者が、多くの関係者の話を聞き、多くの書物や公開文書を調べた結果、やはり巷で言われていたように潜水艦とぶつかったとしか考えられない。

しかし、国の調査期間は、まさに何かを隠蔽して糊塗するように「波を受けて転覆した」という結論を出した。それとは真っ向から矛盾する生存者たちの証言は完全無視である。

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Thursday, May 23, 2024

映画『湖の女たち』

【5月23日 記】 映画『湖の女たち』を観てきた。大森立嗣監督。

いやぁ、随分と難しいものを観てしまった。いやストーリーが難しいのではなく、評価するのが難しいのである。

原作は吉田修一。作品の多くが映画化されており、しかも非常に良い出来の映画になっているケースが少なくないのだが、小説を読んでみたら1作か2作でげっそりしてその後読む気にならない──という、僕にとっては東野圭吾と同じタイプの小説家である。

今回の話は全然繋がらない2つの、いや3つの設定が描かれており(いや、もちろん筋運びの上では繋げてはあるのだが)、その3つが自分の脳内であまりにも結びつかないので、正直とっ散らかった印象が拭えないのも確かである。

ひとつは圭介(福士蒼汰)と佳代(松本まりか)の性的な性癖の話。

冒頭のシーンは未明に腰まで水に浸かって釣りをしている男。暗いし顔が映らないので誰だか分からない。タイトルからすると、ここは川や海ではなく湖なのだろう。後に滋賀ナンバーの車が出てくるので琵琶湖だと判る。

その湖畔に車を止めて自慰に耽っている女がいる。釣りから帰ってきた男が少し離れたところからそれを目撃している。

それが圭介と佳代の最初の出会い(と言っても、佳代のほうは気づいていなかったのだが)だった。

そして、もうひとつは、その同じ早朝に老人介護施設で起きた殺人事件。佳代はそこの介護士で、捜査にやってきたのが刑事の圭介とその直属の上司の伊佐美(浅野忠信)だった。

そしてその裏にはもっと大きな背景があって、17年前の薬害事件を捜査していて立件間近のところで上からのもみ消しに遭ったのが伊佐美と当時の上司の河合(平田満)で、当時は正義感に燃えていた伊佐美はこれをきっかけに完全にやさぐれてしまい、今や捜査をテキトーにこなし、部下にパワハラを働くサイテーの刑事になっていた。

しかも、その裏にはもっと大きな流れがあって、薬害事件をもみ消した当時の厚生労働大臣と次期医師会会長と、介護施設で殺された老人とが繋がっていて、それを調べにやってきたのがジャーナリストの池田(福地桃子)で、調べて行くと731部隊まで絡んでくるというとんでもない広がりを見せている。

これでは観ていても却々一つのテーマに集中できず意識が散漫になってくる。

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Wednesday, May 22, 2024

映画『ミッシング』

【5月22日 記】 映画『ミッシング』を観てきた。Missing

吉田恵輔は大好きな監督でずっと追っかけている。加えて今回の主演は石原さとみである。見逃すわけには行かない。

石原さとみは僕の好きな女優だ、という言い方はちょっと違う。彼女の顔が好きなのだ(だからと言って、彼女の女優としての資質や実績を貶めるつもりは全くないが)。あの顔はひょっとしたら僕が生涯で見た女性の顔の中で一番好きかもしれない。一日24時間ずっと見続けていても決して飽きないと思う。

ところが、この映画での彼女の役どころは、7歳の娘・美羽(有田麗未)が突然行方不明になり、駅前でビラ配りをするなどして必死で探している母親・沙織里である。警察の捜査の捜査にも、当初は集まってきたマスコミの対応にも絶望し、夫の豊(青木崇高)とふたりっきりで躍起になっている。

いつもイライラして、些細なことにもピリピリして、他人の気持ちを慮る余裕など全くなく、四六時中取り乱して大声を上げたり泣いたりし、何かと言えば周囲に当たり散らす、壊れる寸前の、いや、すでに完全にぶっ壊れてしまった母親役である。

だから、この映画の石原さとみは僕が見てきた中で一番可愛くない、と言うか、ちっとも可愛くない石原さとみだった。

描かれる状況が悲惨である。

娘が消えたとき、沙織はアイドルのライブに行っていた。ソーシャル・メディア上ではそれが育児放棄として叩かれている。

その時娘を預かってくれた弟の圭吾(森優作)は学生時代にイジメに遭って以来常に異常にキョドっていて、その日も美羽を一人で家に帰して、その間にどこに行っていたのかはっきりしない。

唯一粘り強く取材に来てくれている地元局の砂田(中村倫也)はある意味良識のある男だが、組織の中でがんじがらめになり、結局は頼りにならない。

映画の中で唯一まともな(と言うか、冷静な)人間として描かれている夫・豊も、妻の無茶苦茶な言い分に時としてブチ切れてしまう。

吉田恵輔は悪意のある監督だから、人間のそういう欠けたところを次々と見せつけてくるので、観ていてとてもしんどい。この監督の映画で、冒頭でいなくなった少女が最後に無事に保護されてめでたしめでたし、なんて形にならないことは分かっている。だから余計にハラハラする。

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Tuesday, May 21, 2024

香坂みゆき『JET LAG』

【5月21日 記】 BS12 の『ザ・カセットテープ・ミュージック』 5/19放送の ”アンノウン歌謡” 特集で香坂みゆきの『レイラ』(1982年)を聴いて、昔持っていた彼女のアルバム『JET LAG』(1984年)を取り戻したくなった。

レコードで持っていたのだが、父親の借金で住んでいた家が競売にかけられて、あっという間に他人の手に渡ってしまい、僕は自分のレコード・コレクションを回収しに行く暇もなく全てを失ったのである。

今調べてみると、配信で聴ける。ただ、かつてアルバムで所有していた僕はどうしても実体を所有したいのである。

それで有料でダウンロードした上でそれをわざわざ CD に焼くという暴挙に出た。最近はそういうことをする人が少なくなっているので、手順が結構面倒になっている。でも、もちろん問題なく CD に焼けた。

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Sunday, May 19, 2024

フロロカーボン弦とナチュリバーブ

【5月19日 記】 ウクレレの弦というのはそんなにしょっちゅう替えなくても良い。張り替える必要はないと極論を唱える人もいるくらいだが、しかし、弾いているとやはり響きが悪くなってくる。そうなると替え時である。

僕はウクレレを2本所有しているが、今回ソプラノのほうに生まれて初めてフロロカーボン弦を張ってみた。そもそもそんな素材の弦があることを知らなかったのだ。

なんでも釣り糸に使われている素材なのだそうだ。YouTube で見て知り、使ってみようという気になった。

今回買ったのはその YouTube のビデオで紹介/推奨されていたオルカスOS-LGT LG(Low-G)。パッケージから出してみてまず驚いたのはその弦の細さ。

で、張り替えてみてもう一度驚いた。めちゃくちゃ響きが良くなった。今までもそんなに安物の弦を張ってきたつもりはないのだが、そうか、このウクレレでこんな良い音が出るのか、と一気に気に入ってしまった。

細くて軽い弦で、とても押さえやすく、これなら初めてウクレレを買ったばかりの人でも楽に弾けるんじゃないだろうか。で、音がきれいに伸びる。

ウクレレという楽器はそもそも音があまり伸びない楽器なので、音が伸びすぎることを嫌がる奏者もいるのだろうが、僕はこれくらい伸びるのが好きだ。

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Thursday, May 16, 2024

Who are they?

【5月16日 記】 ご存じの方もおられるかもしれませんが、会社を辞めてから僕は英会話を学んでいます。

で、長いこと英語に親しんできて、今日ほど驚いたことはありませんでした。

そんなこと知らなかったのか?とおっしゃる方もおられるのでしょうが、僕は初耳で、結構ショックを受けました。

何かと言えば、英会話の教科書に載っている文章で、時々単数の主語を he や she ではなく they で受けていることがあって、初めて目にしたときは誤記かなと思ったのですが、何度か同じようなケースが出てくるんです。

例えば、今日出てきたロールプレイの説明文には、

Your friend is wealthy, but they’re also quite stingy.

などと書いてあります。それで今日インストラクターに「何故、they なんですか?」と訊いてみたら、「 he とか she とか書くのを避けるため」という極めて単純な答えだったのですが、でも、その答えを聞いても僕は何のことか見当がつきませんでした。

それでもう少し聞いてみると、これは性自認が所謂 non-binary な人たちへの配慮なのだそうです。

うーむ、これ、PC(Political Correctness)のボキャブラリーだったんですね!

しかし、なおも怪訝な顔をしている僕に対して、インストラクターが例として続いて提示してくれたのは Instagram のプロファイル・ページでした。

英語版のそこには確かに名前の横に「自分のことをどう呼んでほしいか」を書く欄があり、ある人のところには they/them と書いてあります。つまり、三人称で私のことを表すのに he や she は使わずに they と言ってほしいということ。

え、そんな欄、日本語版にもあるのか?と思って、自分のインスタのプロファイルを見ると、確かに「代名詞の性別」という欄が設けてあり、僕の場合は空欄になっていました。あ、僕もここ埋めといたほうが良いのかな?

しかし、知らないうちにそんな時代になってたんですね。

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Wednesday, May 15, 2024

老桜に花無し

【5月15日 記】 4月の頭に友人たちと六義園に花見に行く予定だったのだが、僕が風邪を引いて中止になった。

そのやりなおしで、今日、六義園に行ってきた。

サクラは当然のことながら、すでにツツジも枯れていて、庭内にほとんど花はなかった。

入ってすぐのところにサクラの巨木がある。花はないが、美しい樹だと思った。

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Sunday, May 12, 2024

映画『不死身ラヴァーズ』

【5月12日 記】 映画『不死身ラヴァーズ』を観てきた。Photo_20240512165801

たくさんは観ていないけれど、松居大悟は結構好きな監督である。

見上愛の名前をしっかりと憶えたのは彼女が主演した MBS の深夜ドラマ『liar』だった。

それほど強い印象はなくて、このまま消えてしまうのかなと思っていたら、映画やドラマ、CM などでわりと頻繁に姿を見かけるようになった。

今年1月期のカンテレのドラマ『春になったら』では主演で見上より5歳年上の奈緒の大学時代の親友を演じており、これは印象に残っている。

一方佐藤寛太の名前をしっかりと憶えたのも、これまた MBS の深夜ドラマ『あせとせっけん』での、主演・大原優乃の相手役である。このドラマは非常に面白かった。MBS のエロティック・ドラマ路線の白眉だと思う。

さて、今回の映画は「構想10年」とあるが、松居監督が別冊少年マガジンの連載漫画に惚れ込んで映画化を目論み、原作者や脚本家の大野敏哉とも議論を重ねたにも拘らず一旦頓挫したものを、再度のチャレンジで漸く映画化できたというものだ。

主人公の長谷部りのは小学生のときに大病を患い、自分でももう死ぬんだろうと諦めた時に、突然見たことのない少年が側にいて、「甲野じゅん」と名乗り、彼女の手を握り、摘んできた花を手渡して去って行く。

りのは奇跡的に回復し、以来「甲野じゅん」は彼女の運命の人となるが、どこを探してもそんな人物は見つからなかった。

ところが、中学生になったりの(見上愛)はある日突然じゅん(佐藤寛太)を見つける。じゅんが所属する陸上部に押しかけてマネージャーとなり、じゅんに熱烈に尽くす。

りのの恋愛は脇目も振らない一直線で、他人の目もまるで気にせず、圧倒的なエネルギーで相手に迫り、告白し、尽くす。そして、その無防備な恋心が押し切るようにして、最後には相手の心を射止めるのである。

しかし、いつしか2人が両思いになった途端、じゅんは影も形もなく消えてしまう。

その後も何度かりのはじゅんを発見する。次は高校の軽音楽部の部長の甲野じゅん、その次は道ですれ違った車椅子に乗ったじゅん、そして、近所のクリーニング店の店長のじゅん。その全ての甲野じゅんがりのと心を通じた瞬間にこの世界から消えてしまうのだ。

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Friday, May 10, 2024

映画『青春18×2 君へと続く道』

【5月10日 記】 映画『青春18×2 君へと続く道』を観てきた。

藤井道人という監督の作品はどれもこれも、なーんかどうにもこうにも観る気にならなくて、これまで『余命10年』しか観ていない。

それもどちらかと言えば「藤井監督であるにもかかわらず観た」のであって、自分の映画評を読み返しても微妙な書き方をしている。

そういうわけで、この映画も当初はまるで観る気はなかったのだが、映画を観る眼を信頼している知人が褒めていたので、観ることにした。

果たして良い映画だった。

しかし、それにしてもこのダサいタイトルは何だ!と思って見始めたのだが、多分協賛社である JR から良い条件を引き出すために必要だったのだろう。

ラブ・ストーリーである。そして、多くの部分がロード・ムービーである。

18年前に一人旅で台湾に旅行に来て、現地のカラオケ店で暫くバイトをしていたアミ(清原伽耶)と、そこのバイト仲間で、年上のアミに恋をするジミー(張孝全:シュー・グァンハン)。

そして、自分の恋心に応えないまま帰国してしまったアミを追って、18年後に、一旦自分の夢は叶えたが今は失意のどん底にいるジミーが、彼女を追って日本を旅する。

東京からアミの故郷である福島県に行くのにものすごい遠回りをするという設定が効いている。これが原作(台湾の紀行エッセイ)通りならびっくりである。

映画はそれらの設定を見事に活かしている。前半、台湾を舞台にしたのは大正解で、その街の景色や人々の息吹が極めて印象的に描かれる。

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Wednesday, May 08, 2024

表札と登記簿謄本

【5月8日 記】 幼い頃の僕の家もそうでしたが、昔はみんな、門柱とか玄関の入口の上とかに表札を掲げて、場合によってはその表札に居住者/家族全員の名前が列記されていて、ひょっとしたら郵便受けの上には名前だけではなくて住所まで表示してあって、電話帳には必ず自分の家の番号を登録していたものです。

今、ウチではそれは一切やっていません。マンションの集合郵便受けにも部屋の入口にも何も書いていないし、もちろん電話帳にも載せていません(ま、今では一体誰が電話帳で電話番号を調べるんだろうかという疑問がありますし、番号を載せるべき家電も既に処分してしまって持っておりませんが)。

思えばかつてこれらは「ここは俺の家だぞ!」「俺はここにいるぞ!」と世間に向けて声を挙げるためのものでした。それは「知ってもらうため」「見つけてもらうため」の方策だったのです。

ところが、そんなおおらかだった時代が変容を遂げて、今ではその情報を元に詐欺を働くような輩が出てきました。そんなわけで、みんないろんなことを隠し始めたんですよね。

それで思うのは、今の時代、登記簿謄本のあり方も変えるべきなんじゃないかな、と。

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Tuesday, May 07, 2024

いつまでマスクするのか問題

【5月7日 記】 いつまでマスクするのかがちょっと難しくなってきた。

去年までは真夏のどんなに暑い日でも外出時にはきっちりマスクをしていた。でも、今年はどうするか。

そもそも僕は政府がコロナ対策を緩めたことに納得が行っていない。確かに死者や罹患者の数はピーク時に比べて減ったのかもしれない。確かに劇症化は緩和されたのかもしれない。しかし、終息宣言が出たわけではない。

政府はなんとなくの雰囲気で緩めただけなのだ。その尻馬に乗って脳天気にはしゃぐ気にはならないので、僕は今日に至るまできっちりマスクをしてきた。

僕は元々、冬場の外出時には常にマスクを着用してきた。それは保温と保湿のためである。ウィルスは湿度や温度が高くなると弱体化する。引き始めの風邪ならマスクの重ね着だけで治ることさえある。だから、マスクをすること自体にはそれほど抵抗がなかったということもある。

とは言え、真夏は別だ。今年の夏も、炎天下の、あの息が詰まりそうになる苦しい状況下でもマスクを着用し続けるのかと思うと気が滅入るのも確かだ。

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Sunday, May 05, 2024

Play Log File on my Walkman #154

【5月5日 記】 去年の5月以来ほぼ1年ぶりのプレイログ披露(ちなみにこれが、「以来」と「ぶり」の正しい、と言うか規範的な使い方)。今回も5曲:

  1. よろしく哀愁(吉田拓郎)
  2. ふたりだけの旅(はしだのりひことクライマックス)
  3. 白いパラソル(二階堂和美)
  4. 今夜はブギー・バック(TOKYO No.1 SOUL SET+ HALCALI
  5. ペッパー警部(石川さゆり)

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